レッスンでも発表でもコンサートでも、クラシックギターを持ち出す際にはケースに入れるのが一般的です。ソフトケースからセミハードケース、ハードケースまで多種多様なケースが出ています。一般的に売られているケースの特徴と選び方をまとめてみました。
まずはケースの紹介とまとめ
実はこの記事を書く前に自分のケースを軽いものにしようと思いいろいろ調べました。最終的にはスーパーライトケースを買い足したことになったのですが、その過程で得た知識をまとめた次第です。
何はともあれ、まずはケースの紹介を。日本のクラシックギター専門店で一般的に売られているものを中心にまとめています。
新しいものが出たら追加予定です。また、持ち運びに適さないソフトケースは含んでいません。また、ギターを買ったらついてくるウッドシェルのハードケースも含んでいません。
種類 | 製品名 | 重さ | 定価 | 特徴 |
ギグバッグ | NAZCA(ナスカ) Protect Case | 1.6kg | 34,000円~ | 圧倒的に軽量。オーダーメイド可能。保護材は少なめ。 |
ARIA ABC-700CF | 2.5kg | 10,000円 | 23 mmのクッション。スマホやタブレットポケットあり。 | |
ARIA ABC-300CF | 1.5kg | 6,000円 | 軽くて安い。A4が入る2つのポケットあり。安い。 | |
Ritter AROSA(RGA5) | 3.02kg | 20,000円 | 33mmの極厚クッション。レインカバー付き。 | |
Ritter BERN(RGB4) | 1.98kg | 12,000円 | 28mmの厚めのクッション。3/4サイズや1/2サイズのギター用がある。 | |
KIKUTANI GVB-30C | 1.32kg | 6,300円 | 「移動が多い学生向け」がコンセプトのギグバッグ。 | |
セミハードケース | スーパーライトケース | 2.1kg | 25,000円 | 軽量かつ厚い保護材。ロングセラー。比較的安価。 |
MACケース(MAC-150) | 2.3kg | 17,000円 | スーパーライトケースとよく見た見た目、仕様。廉価版? | |
アリア ライトフォームケース | 2.0kg | 12,000円 | セミハードケースの中では最も軽量、安価。 | |
バム パフォーマンス ケース | 2.5kg | 42,000円 | ポケットが多い。 | |
キョーリツ SCG-100 | 3.1kg | 11,000円 | 安価。少し重め。 | |
A.A.A. ウルトラライトケース(AC-0702) | 2.8kg | 13,000円 | 実売で1万円を切る。少し重め。 | |
STENTOR SCC-100 | 1.9kg | 14,300円 | 1kgを切り、かつ安い。 | |
ハードケース | アランフェス ギターケース(グラスファイバー) | 3.2kg/3.3kg | 34,000円 | 外装にグラスファイバー使用で比較的軽量。スタンダードは3.2kg、ラフフィニッシュ版は3.3kg。 |
アランフェス ギターケース(カーボン) | 2.3kg | 76,000円 | ハードケースの中で最軽量。 | |
ヒスコックスケース | 約4kg | 約30,000円 | 高耐久ギターケースの代名詞。 | |
バム ハイテック ギターケース | 2.8kg | 110,000円 | ABS樹脂外装+発砲コア | |
バム クラシック CL ケース | 4.1kg | 77,000円 | ABS樹脂の1層構造についてコスト削減 | |
ヴィセスナット ギターケース アクティブ | 3.5kg | 80,000円 | フライトケース並みの頑丈さ。ギターにフィットするように内装サイズを調整可能。 | |
ヴィセスナット ギターケース プレミアム | 3.5kg | 120,000円~ | アクティブの高級版。 | |
レオナケース | 3.1kg | 162,800円 | カーボン製ケース。デザインもおしゃれ。 | |
Rainbow RCC-SA | 3.2kg | 10,000円ほど(実売) | 激安のABS樹脂製ケース。 | |
COCONスペリオールカーボンファイバーケース | 約2kg | 99,000円 | 重さ2kgでセミハードケースより軽い。 |
以下からはそれぞれの詳細です。
ギグバッグ
ギグバッグとはケースに硬いフレームがなく、クッション材によって保護するタイプのケースです。
NAZCA Protection Case(ナスカ プロテクション ケース)
珍しい日本で手作りされているケースです。ホームページはこちらです。クラシックだけでなく、エレキやアコースティックなど様々なギターのケースを作成しています。
特徴としてはオーダーメイドを受け付けているところです。色だけでなくサイズやジッパーなど、さまざまな部分をカスタマイズできます。もちろん、カスタマイズすると値段は上がるのですが。。。
また、日本で作っているため、修理にも対応しているところがうれしいところです。
ギグバッグといわれるソフトケースとセミハードケースの中間にあたるケースのため非常に軽量です。標準仕様で1.6kgだそうです。
一方、軽量なため保護材は少なめです。上と下はあるようですが、横はそれほどでもなく、たとえば満員電車で押されると不安があります。また、内装も標準仕様ではクラシックギターでよくあるベルベットのような内装ではなく、ナイロン繊維むき出しの内装のようです。このため、塗装が弱いギターにはちょっと気を使うかもしれません。
ARIA ABC-700CF/ABC-300CF
ギター関連商品を数多く取り扱っているARIA(荒井貿易)の商品です。
ABC-700CFはギグバッグの割に重いですがその分ぶ厚いクッションがあります。ABC-300CFはクッションを減らして軽さを重視しています。どちらも安いです。
詳細は以下の記事を参照ください:
Ritter AROSA(RGA5), BERN(RGB4)
スタイリッシュなギターケースを多数販売するリッターのクラシックギター用ギグバッグです。
パッドの厚みが33mm/28mmあり、ギグバッグですがしっかりと楽器を保護してくれそうです。
BERNにはカラーバリエーションがあり、かつ3/4サイズや1/2サイズのギター用のバリエーションがあります。
詳細はこちらの記事を参照ください:
KIKUTANI GVB-30C
「移動が多い学生向け」をコンセプトにしたクラシックギター用ギグバッグです。
安い、軽い、持ち運びやすいといった質実剛健な仕様を持っており、学生でなくても当てはまる人ならおすすめといえるでしょう。
セミハードケース
セミハードケースとは弾力があったり柔軟性があったりするフレームでギターを保護するタイプのケースです。
スーパーライトケース
クラシックギターケースのデファクトといっても良いケースです。2.1kgと軽量なのに保護材も分厚く、かつ価格も定価25,000円と比較的安価です。
保護材としてスタイロフォームという特殊な素材を使っているのも特徴です。この素材は断熱性および断湿性に優れており、軽量ケースの弱点をカバーしています。また、YKKの止水ファスナーを使っていたり、鍵にもこだわっているなど、価格の割にしっかりと使われている印象があります。
また、珍しく小さめの630mmの弦長用のケースが用意されています:
選択が難しいショートスケールギターのケースについてはこちらの記事で解説しています:
弱点としては、さすがに飛行機の預け荷物にするには不安があるくらいでしょうか。また、強いて言えばみんな使っているので自分のがどれかわからなくなる可能性があるところでしょうか。これも最近は色のラインナップが増えていて、かぶりづらくはなっています。
私はこれを買いました。
MACケース(MAC-150)
スーパーライトケースのそっくりさんです。定価がスーパーライトケースの25,000円に対して17,000円とかなり安くなっています。
パッと見はほぼ同じなのですが、
- 内装材がスタイロフォームではなくスチロフォーム(==ただの発泡スチロール?)
- ファスナーが止水ファスナーでないと思われる
- 鍵がないと思われる
という点が異なるようです。これらの変更点が問題ない方にはお勧めかもしれません。Amazonでも安いです。
アリア ライトフォームケース
セミハードケースの中では最も安価(12,000円)かつ軽量(2.0kg)なケースです。
形もスーパーライトケースと異なり、ネック部分がくびれたデザインとなっています。
バム パフォーマンスギターケース (BAM Performance Guitar Case)
ハードケースで有名なBAMが出しているセミハードケースです。ポケットが多くあるのが荷物を減らせてよさそうです。
あまり使っている人を見たことがないのですが、人気がないのでしょうか。
キョーリツ SCG-100
キョーリツのセミハードケースです。定価は11,000円とアリアとあまり変わらないですが、実売価格が安いです。
重量は3.1kgとセミハードケースとしては少し重めですが、それだけ発泡スチロール部分がぶ厚いと思われます。
A.A.A. ウルトラライトケース AC-0702
A.A.A.というブランドのセミハードケースです。定価は13,000円なのですが、こちらも実売価格が安いです。
ただ、「ウルトラライト」という名前の割にちょっと重いのが難点でしょうか。それだけ丈夫な内層を使っているのだとは思います。
詳細はこちらの記事を参照ください:
STENTOR SCC-100
イギリスのSTENTORのセミハードケースです。ヴァイオリンケースの技術を応用しており、耐衝撃性と軽さを両立しています。
特徴はなんといっても1.9kgの重量。2kgを切るのはセミハードケースでも珍しいです。
価格は定価14,300円、実売では1万円強でありお買い得なのもうれしいですね。
ハードケース
ハードケースとは硬質なフレームと外装、および柔らかい内装の2段構えでギターを保護するケースのことです。
アランフェースギターケース(グラスファイバー)
おしゃれ系クラシックギターケースの先駆けであるアランフェスギターケースです。
外装が軽量かつ丈夫なグラスファーバーでできているため軽いのに丈夫なケースになっています。密閉性も高いため湿度も通しにくいです。
一方、最近出てきたケースに比べると重量がそれほど軽くないです。ウッドシェルのハードケースよりはずっと軽いのですが。
アランフェスギターケース(カーボン)
アランフェスギターケースのグラスファイバーをカーボンに変えたものです。
軽量なカーボンを使っているため重量が1kgほど減り2.3kgとなっています。ハードケースの中では圧倒的な軽さです。
カーボン製のアランフェスギターケース カムフラージュを手に入れたのでレビューしました:
ヒスコックスケース
昔から耐久性の高いケースとして知られ、海外のギターを日本に運ぶ際にもよく使われるのがヒスコックスケースです。
500kgの耐荷重、雨や湿度をシャットアウトする構造など、その実力は他を寄せ付けません。
今となってはちょっと重すぎるのと、デザインがいまいちなのが難点ですが、耐久性に全振りしているともいえるでしょう。
こちらの記事で実際の使用感も含め、詳しく解説しています:
バム ハイテック ギターケース
フランス製のおしゃれなギターケースです。単色だったり暗い色になりがちだったりするギターケースの中では異色の存在です。
おしゃれなだけでなく機能性も抜群で、外装が3層構造になっており断熱性や断湿性も抜群です。
一方、カーボン柄の外装もありますが、一番外側はABS樹脂です。このため結構傷はつきやすいです。
私も購入してレビューしました:
収納は充実していませんが、オプションとしてギターケースにくっつけられるバックパックが販売されています。
バム クラシック CL ケース
BAMから新たに登場した、低価格ラインのケースです。
内部構造を簡素にして価格を抑えつつ、優れたデザイン性は維持しています。
詳細はこちらの記事を参照ください:
ヴィセスナット ギターケース
割と最近発売されたギターケースです。
アジャスタブルサポートベルトという機構を持っているのが特徴です。通常のギターケースは専用ケースでもない限りはギターの形とケースの形がぴったりあっていないのですが、このケースはベルト締め付けることでギターとケースをしっかり密着させることができます。
ラインナップは2種類で、比較的安価なアクティブと高価なプレミアムがあります。
(追記): ヴィセスナットのカーボンケースも登場したようです。ヴィセスナット エレメンタル (Visesnut Elemental)という名前です。重さは4.1㎏と重量級なので、カーボンの軽さを活かしたというよりは丈夫さを活かして楽器保護に注力したケースでしょうか。
レオナケース
著名なギター製作家とのコラボレーションでできたギターケースです。
数あるギターケースのなかでもデザインの良さは群を抜いています。
お値段はお高めですが、その価値はありそうです。詳細は以下の記事を参照ください。
Rainbow RCC-SA
実売1万円ほどの、激安ABS樹脂製ケースです。
見た目はアランフェスケースに似ていますが、あちらは素材がグラスファイバーやカーボンなのに対し、こちらはABS樹脂製となっています。
ただ、重さは3.2kgとハードケースの中ではそこそこ軽く、何しろ安いので気軽に使える点がうれしいです。
詳細はこちらの記事を参照ください。
ギター専門のアウラが販売するカーボン製のハードケースです。
COCON スペリオールカーボンファイバーケース
重さが2kgとセミハードケースよりも軽いのが最大のメリット。ハードケースを軽さで選ぶならこれ一択でしょう。カラーバリエーションも多く、おしゃれに持ち運べそうです。
ただ、軽いということは保護するための部品が削られていることも意味します。耐久性重視の場合は注意してください。
ケースの選び方のポイント
このように有名なケースだけでもいろいろなものがあって選ぶのに迷います。
どのように選べばいいのかポイントをまとめてみました。
悩みがちなハードケースとセミハードケースのどちらを選べばよいかについては別記事で解説しています:
保護性能
なんといっても重要なのは保護性能です。ケースの一番の目的は楽器を保護することなのでここを外すわけにはいきません。
しかしながら、保護性能が高いほうがいいからと言ってぶ厚い鉄板で作るわけにはいかないのでポイントをおさえた保護性能が重要になります。
とはいえ、全体的にやはりハードケースの方が保護性能は高いです。
クッション性
これはケースを落としたり倒したりしたときのための保護性能です。楽器を守るクッションが多く入っているかどうかがポイントになります。
一般にはギグバッグはここが弱くなります。ヘッドや楽器の下など重要なところには入っていますが、倒すのは極力避けた方がいいかと。
耐圧性
たとえば満員電車に乗った際に押し付けられたときに保護するための性能です。
外からの圧力を楽器ではなくケースに逃がすことができるかがポイントになります。
一般には外殻がないギグバッグやセミハードケースよりは、硬い外殻があるハードケースの方が一方の圧力をもう一方の面に逃がしやすいです。
耐貫通性
針等の鋭いもので貫かれたときの保護性能です。
これもやはりギグバッグやセミハードケースよりはハードケースの方が強いです。
耐水性
雨に降られたときになかのギターをぬらさないための性能です。
やはりハードケースの方がしっかりと蓋が閉まるため安心ですが、ギターケース用のレインコートを使うという手もあります:
軽量性
ケースには楽器を持ち運ぶという目的もあるので軽ければ軽いほうが良いです。
目安としては、ギグバッグなら1㎏台、セミハードケースが2㎏前半、軽量ハードケースが3㎏前後、ウッドシェルのハードケースが4㎏以上といったところです。
持ち運ぶなら3㎏前後以下が良いかと。
ちなみに方への負担を減らすならストラップの交換も効果的です:
収納性
ケースを持ったり背負ったりすると他の荷物の量が制限されます。このため、できるだけケースに収納があった方がいいです。
この点はギグバッグやセミハードケースの方が優れており、楽譜や足台、支持具が入るポケットが外側についています。
一方、ハードケースは一般に中に弦やチューナーが入るポケットがある程度です。
耐気候性
木材でできているクラシックギターは温度や湿度の急激な変化に弱いです。このため、ケースが変化を和らげる必要があります。
また、湿度が高すぎる/低すぎるときにこれ遮断するのも重要です。木でできているウッドシェルのハードケースは気が呼吸するので強いといわれますがそうでもありません。変化するときには強いのですが、ずっと湿度が高い中にさらされると木が湿気を吸って逆に湿度が取れにくくなります。
スーパーライトケースのように温度や湿度を遮断する素材を使っているものもありますが、やはりハードケースの方が強いです。
デザイン
本来のケースの目的ではないとはいえ、やはりデザインの良いケースはテンションが上がります。
最近はカラーバリエーションも増えました。
ただ、安いケースほどデザインがシンプルに、カラーバリエーションも少なくなる傾向にあります。
寿命
そこそこのお値段のするケースですのでできるだけ長く使えた方がいいです。
自分で壊してしまうのはともかくとして、素材として寿命があるものは取り扱いに気を付けた方がいいです。
外装の傷つきやすさ
ABS樹脂で作られているケースは傷がつきやすいです。バムハイテックスやヴィセスナットアクティブが該当します。ヴィセスナットプレミアムは塗装が硬く傷つきにくくしているようですが、それでも傷はつくでしょう。
外に持ち出すとどうしてもどこかにあたったり擦れたりするので注意が必要です。
加水分解
ポリウレタンを使っているケースは加水分解に注意が必要です。この中ではバムのパフォーマンスケースが該当します。
加水分解はポリウレタンの宿命で、空気中の水分を吸ってだんだんボロボロになっていく現象です。対策としてはできるだけ湿気の多い場所に置かないことですが、日本ではなかなか難しいところです。
カーボン
軽くて丈夫なカーボンですが、弱点があります。それは日光(紫外線)です。カーボン自体ではなくカーボン繊維を固める接着剤が日光に弱く、日光に当てると劣化していきます。
さすがにギターケースを直射日光に長時間放置しておくことはないかと思いますが、できるだけ日光から避けて保管した方がいいです。今回紹介したケースの中ではアランフェスギターケースのカーボンバージョンが該当します。
(追記): ヴィセスナットのカーボンケースも登場したようです。ヴィセスナット エレメンタル (Visesnut Elemental)という名前です。重さは4.1㎏と重量級なので、カーボンの軽さを活かしたというよりは丈夫さを活かして楽器保護に注力したケースでしょうか。
すべてを満たすケースはない、2つ持ちも選択肢
色々な要素があるケースですが、1つのケースですべてを満たすものはありません。
このため、室内保管用と持ち出し用の2つのケースを持っておくのも良いかと思います。
私は自宅では桜井RF専用ケースを使用し、持ち運び用にスーパーライトケースを使っています。
外出の方が高い保護性能が必要そうに思いますが、実は外出中は自分がギターケースのそばにいることが多く、意外と気を付けていられます(離れるときはギターを取り出してます)。
一方、自宅にいるときはギターを家に残して外出することもありますし、寝ている間は長時間近くにいません。地震や他者、あるいはペットによって倒されたりすることもあるので、自宅の方が保護性能が高い必要があると考えました。
しかしながら、ケースが2つあると場所を取るので1つですべてを済ませるならバム ハイテックスかなぁと思います。
重量もそこそこ軽いですし、保護性能も高く、温度も湿度も遮断できます。デザインは素晴らしいです。唯一、収納がないという欠点はありますが、オプションでケースに取り付けられるバッグがあります:
これとセットというのもありかもしれません。
せっかくのお気に入りのギターを台無しにしないためにもケースもこだわって選びたいものです。