クラシックギターを弾くうえで多くの人が使っているのが滑り止めです。初心者ほど楽器が滑りやすいから必要と思いきや、プロのギタリストでも使っている人が多いです。必要性とおすすめの滑り止めについて書きたいと思います。
ギターが滑るので楽器と足の間に挟む滑りどめ
なぜ滑り止めを使うのか?平たく言うとギターが滑るからです。
ギターには一般的にツルツルの塗装が使われます。ツルツル度合いは塗装によって違うのですが、大体がある程度磨き込まれた塗装になっています。
また、そもそも材質の木自体がやすりがかけられて滑らかな状態ですので、オイルフィニッシュのような極薄の塗装でも滑りやすくなっています。
さらに、ギターが当たる足は素足の人は少なく、滑りやすい材質の木地があるかと思いますので、逆に滑らない要素がどこにもありません。
こういう弾き方をすることがわかっている楽器なのだからもう少し工夫してもいいんじゃないかとも思いますが、形式と伝統を大事にするクラシックの楽器なのでしょうがないのでしょうね。。。
なぜ、どういうときに、どのように滑るのか?
滑りやすいといっても普通にギターを置いている状態ではギターは滑りません。それくらいの摩擦力はあります。
それではどういうときに滑りやすくなるのでしょうか?
私が思うに、左手がしっかり脱力できているときにこそ滑りやすさが生まれ、これがプロや上級者も滑り止めを使っている理由だと思います。
左手を脱力する=腕の重みで弦を押さえる
まず、左手が脱力できている状態とはどういう状態かというと、不必要な力を入れずに弦を押さえている状態です。
このためには腕の重みで弦を押さえることが必要です。いわば、指先で指板にぶら下がっている状態です(以下の福田進一のツイートでレッスン参照)。
ここで重要なのは、弦を押さえるときに親指と他の指で指板を挟んでいるわけではない、という点です。
弦を押さえる力はどこに行くのか?
弦を押さえるときにその力を親指で挟むことで相殺しているのであればギターは動きません。
が、挟んでいないのであれば弦を押さえるのに必要な分以上の力はギターを動かす力となります。弦を押さえる最小限の力で押さえるのは難しいでしょうし、弦が振動しているとビビりそうなので、ある程度のギターを動かす力はかかっていると思われます。
ギターを構えるときには左足の上にギターのくぼみが来るかと思います。この点を中心にしてギターを回転させる方向に力が加わります。つまり、ギターのテールが前方向に動きます。
また、ギターに「ぶら下がる」ように押さえるときには弦に対して直角の力だけでなく指板を下方向に動かす力も加わりますので、ギターのテールを上に持ち上げる力も働きます。
どんな上級者でも弦を押さえるだけの力をかけることはできないので、多かれ少なかれこのような力が働いていると思われます。
特に1フレットのセーハの時に動く
皆さんも経験があるかと思いますが、ギターが特に滑るのは1フレットのセーハをするときであるように思います。これは、上のようなものを回転させる力が働くときには、端っこを押さえたほうがより強い力が働くためです(モーメント)。
また、弦を1本押さえるよりもセーハの方がはるかに強い力がかかりますので、より滑らせる要因となります。
逆にハイポジションは押さえるのに強い力が必要なのにギターは滑らず動きません。これはモーメントが弱いためです。
どうすれば滑らなくなるのか?
このようなギターを回転させる力でギターが滑る場合、どのようにすれば滑らなくなるのでしょうか?
右腕でしっかり抑え込む
1つの方法は右腕でしっかり抑え込むというものです。
クラシックギターを弾くとき、右腕はギターの側面板あるいは表面板あたりに置くかと思います。
この右腕で回転する力を相殺すればギターは動きません。
たぶん、右腕でしっかり押さえている人はギターが滑りにくいんじゃないかと思います。
この方法の問題は、必ずしも右腕が一定の場所にあるとは限らないという点です。
音色を変えるために弾く場所を変えることもあれば、ハーモニックス、タンボーラなど、クラシックギターを弾くうえで右腕は意外といろんな場所に動かします。
すべての場合においてしっかりと抑え込めるとは限りませんが、弾き方や人によってはあった方法だと思います。
右足で抑え込む
また、右足でしっかり抑え込んでもいいかと思います。
ギターに対して右足をしっかり押し付けるようにすれば摩擦力が高まり、回転しづらくなります。
ただ、演奏の際には足も脱力した方がいいといわれていまし、ずっと押さえ続けるのも疲れそうです。
滑りづらい生地の服装にする
革でできた生地であれば滑りづらいのでいいかと思いますが、練習の時も常にこれはちょっと。。。
滑り止めを使う
というわけで多くの人は滑り止めを使うことによって回転する力を摩擦力で抑え込んでいるのではないかと思います。
おすすめの滑り止め
では、どのような滑り止めを使えばいいのでしょうか?
GGスーパー・マットやカーペット用の滑り止め
一番よく使われているのはおそらくGGスーパー・マットのようなカーペット用の滑り止めのようなものです。
100円ショップにも売っているのでこれを買って切って使っている人も多いかと思います。
足とも楽器とも滑る
これの問題は、ギターと足とどちらにもくっつかないのでどちの接点も滑るという点です。
滑り止めと言えども100%滑らないわけではなく、また使っていくうちにだんだんと滑り止めの効果が失われていきます。滑り止め自体はギターとも足ともくっつくわけではないので、どちらとも滑る可能性があり、滑りやすいです。
荷物になる
滑り止めはくっつかないので持ち歩く必要がありますが、これが意外と荷物になります。
クラシックギターを大事にしっかりと持つと、小さくて軽い滑り止めですが、意外と邪魔でステージに上がるのに難儀します。
立ち上がった時に落ちる
また、ギターを弾き終わって立ち上がった時、滑り止めを落としてしまうことが多々あります。
滑り止めの存在を忘れているときもありますが、中途半端にギターに張り付き、それがそのうち落ちるというケースもあります。
そうして忘れ去られるということも。。。
本番だけじゃなく、練習の時にちょっとギターを置くときもよく落ちます。それをひろって、膝に乗せて、というのも面倒です。
新たなおすすめ: シリコンラップ
私がお勧めするのはシリコンラップといわれる商品です。
シリコンラップは再利用のできるサランラップです。本来は電子レンジの温めや冷蔵庫での保管時に、食器にかぶせて使います。
こんな感じの見た目です:
片面が貼り付く面、片面が小さい突起がある面になっています。
非常に柔らかいのに丈夫な素材です:
なお、こんな感じの見た目のものもありますが、おすすめは小さい突起のついた平面のものです:
ギターに張り付く
このシリコンラップ、良いところはギターに張り付くという点です。
20cm x 20cmくらいのものをそのまま貼り付けたので大きすぎかつ張り方が汚いですが、しっかりとギターに張り付いています。
シリコンゴムは接着剤で貼り付くのではなく、素材自身がくっつく性質をもっています。私はギターリフトを使っているので右足のみ使っていますが、ぴたっと吸着しています。左足部分にもしっかりつくかと。
くっついてくれるので楽器との間で滑る、落ちる、荷物になるという欠点が解消されています。
足と触れる面は足とくっつくことはないですが、しっかりとした滑り止めの効果があります。ゆったりした短パンをはいているとギターよりもむしろ短パンと足の間が滑るくらいです。
また、柔軟性がある素材なので、ギターの側面板と底板の間の角もしっかりカバーしてくれるのが良いです。GGスーパーマットだとここがいまいちなんですよね。
切るのも簡単そうなのでもう少ししたら切ろうかな。。。
自己吸着するのがちょっと面倒
ちょっと面倒なのは、貼り付く面同士が吸着してしまうという点です。
たいして強い接着力ではないので簡単にはがせるのですが、ステージ上でこれになるとパニックになりそうです。まあ、ステージに出る前にギターに張り付けておけばいいので問題はないかとは思います。
だめでも本来の目的で使えばOK
私はダメ元で買いました。なぜなら、だめでも本来の目的で使えばサランラップの消費量が減ると思ったからです。
この快適さは文章ではなかなか伝わらないのでぜひ試して欲しいと思います。
布で滑りを止める「ピッカーズクロス」
布で滑りを止める「ピッカーズクロス」という製品もあります。
製造しているのはオプティマという弦で有名なメーカーです。
特徴は1.3mmの薄さで、厚手の滑り止めに比べて違和感なく利用できます。
また、40cm x 40cmという大型サイズで広い範囲をカバーでき、現代ギターや100均の滑り止めより見た目がおしゃれなのもうれしいポイント。
ラッカー系の塗料で実験を繰り返しほとんど影響がないことを実証しているとのことで、安心して利用できます。
実際に使ってレビューしました:
塗装を気にするならセーム革
これらの化学的な物質でできた滑り止めの懸念点は、素材によっては塗装と反応してくっついてしまう可能性があるという点です。
カーペットの滑り止めの素材は多くの場合はPVC(ポリ塩化ビニール、塩ビ)かと思いますが、これやシリコンゴムは有機溶剤に溶けます。以下の記事でも書きましたが、ラッカー塗装は有機溶剤であるシンナーを使っており、それが抜けきらずに残っています。
この成分に滑り止めが反応して解け、楽器に滑り止めが貼り付くという現象が起きます。
セラック、ポリウレタン、カシューといった塗装の場合はシンナーを使っていないので大丈夫そうな気はしますが、私から100%とは言えません。
少なくとも滑り止めは演奏中のみ使用し、不要な時は外しておいた方がいいかと思います。
このため、塗装に気を使う人はセーム革(鹿の革)を滑り止めに使っています。セーム革は楽器をふくのにも使えて便利なのですが、ちょっとお高めなのが玉に瑕です。
ちなみに、人工皮革でできたものもあり、少しお安めです。
左足に使うか?右足に使うか?両足か?
滑り止めのもう1つの悩みどころはどこに使うかという点です。
多くの人は左足の下にひいているかと思います。これは、ギターの重みのおかげで摩擦力が高まるためだと思われます。
一方、先述の通り、一番力がかかるのはギターのテール部分なので左足に使うのも理にかなっています。
摩擦力の点でいうと両足に使うのが一番ですが、GGスーパー・マットやセーム革の場合は持ち運びやセッティングが面倒かもしれません。この点でもシリコンラップなら先に両足分つけておけるの有利かと思います。
どれが一番いいかは試してみて好みに合うものがいいのではないでしょうか。
滑り止めを使って余計な力を抜いて演奏を
滑り止めを使うメリットは、ギターが動かないように抑え込む力が不要になり、脱力した状態で演奏できるという点です。
ギターが動いてしまうことに気を使っていると音楽にも集中できませんし、疲れてしまいます。
一番いいのはギターの製作時から体と接する部分に滑り止め的な加工をしてくれることなのですが、それが許されない以上は自衛するしかないかと。
いや、ギター支持具も滑り止めも使わない!という原理主義も悪くはないと思いますが、一度使ってみるとその楽さに驚くかと思います。