This post is also available in: English (英語)
クラシックギター弾きにとって弦は消耗品であり、一年間の中で最もお金をかけているところといってもいいかもしれません。
そんな弦がなぜ劣化するのか、寿命を延ばすにはどうしたらいいかということを書きたいと思います。
この記事はかなり詳しくメカニズム等を解説していますが、よりシンプルな解説は以下の記事を参照ください:
https://cooksealphoto.com/%e3%82%af%e3%83%a9%e3%82%b7%e3%83%83%e3%82%af%e3%82%ae%e3%82%bf%e3%83%bc%e5%bc%a6%e3%81%af%e3%81%84%e3%81%a4%e4%ba%a4%e6%8f%9b%e3%81%99%e3%82%8b%ef%bc%9f%e5%af%bf%e5%91%bd%e3%81%ae%e5%88%a4%e6%96%ad/
以下の記事で本ブログの弦のレビュー/感想/情報記事をまとめています
https://cooksealphoto.com/%E5%BC%A6%E3%81%AE%E6%84%9F%E6%83%B3%E3%80%81%E3%83%AC%E3%83%93%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%81%BE%E3%81%A8%E3%82%81/
低音弦の劣化
高音弦と低音弦を比べると先に低音弦の方が劣化するというのは疑問の余地のないところかと思います。
では、なぜ低音弦が劣化するのか。現代ギター2018年12月号にそのあたりが説明されていましたので紹介したいと思います。詳細は雑誌の方をご覧ください:
錆による劣化
クラシックギターの低音弦は一般的に細いナイロン繊維を束ねたものを細い金属線で巻くことでできています。一番単純な劣化はこの金属線の錆によるものです。
しかしながら、一口に錆といってもいろいろあります。前述の雑誌で説明されていて面白かったのは、銅の錆は音が大きく劣化するが、銀の錆はそれほど影響がないという点です。
巻線は単一の金属でできているのではなく、一般には銅線の上に別の金属のメッキをしています。メッキには銀を使っていることが多いようです。銀は錆びやすくはあるのですが、表面に薄く錆を発生させるだけです。このため、弦全体としては錆びても大きく振動が変わらないようです。
一方、巻線の本体である銅は錆が結構分厚くできるのだとか。このため銅が錆びると音が大きく劣化します。
錆の見分け方は簡単です。銀が錆びた場合は弦の表面が黒っぽくなります。一方銅が錆びると青っぽくなります。また、銀の場合は弦の太さはそれほど変わりませんが、銅の場合は盛り上がって見えます。
私の経験としては、銀の錆はすぐにおきますが、銅の錆は弦をはってからしばらく(月単位で)置いておくとできる気がします。おそらく、最初はメッキが銅が錆びるのを防いでくれるのですが、そのご利益がなくなっていくと芯である銅が錆びるのでしょうね。
では銅を使わなければいいじゃないか、と思いますが、
- 高い金属を使うと弦の値段が上がる
- 硬すぎる金属を使うとフレットが削れ、柔らかすぎる金属を使うと弦が削れる
というわけで、銅が今のところベストのようです。
巻線と芯線のずれによる劣化
もう1つの劣化は巻線と芯線のずれによるものです。
これも前述の雑誌にあったのですが、低音弦は巻線と芯線が一体となって振動するといい音が出るが、これがずれると音がぼんやりしてしまうそうです。
ではなぜずれるかというと、巻線がフレットにあたる物理的なダメージが原因だそうです。弦をしばらく弾いているとフレットにあたる部分がへこんだり、巻線がずれて中の芯が見えたりするかと思います。これが劣化です。
元々ナイロン繊維にしっかりと金属線を巻き付けることで一体となって振動していたものが、演奏によるダメージで一体でなくなり、音が劣化するというのがメカニズムのようです。
よく弾く人は巻線のダメージ、弾かない人は銅錆によるダメージを受けやすい
この2つの要因からギター弾きの影響の受けやすい劣化が見えてきます。
まず、よく弾く人は銅が錆びるより前に巻線がフレットと頻繁に当たってダメージを受けます。これによって音が劣化します。
一方、あまり弾かない人や、複数の楽器を持っていて張りっぱなしにしている人はフレットによるダメージを受けづらいです。しかしながら、空気中に水分がある以上錆は発生しますので、いずれ錆によって音が劣化します。水分を無くすと木材からできている楽器がダメージを受けますのでそれはできません。
これにより、弾こうが弾くまいが弦の音は時間とともに劣化するわけです。
高音弦の劣化
一方、高音弦は低音弦に比べると劣化もしづらいという印象を持っているかと思います。
先述の雑誌は低音弦を主に製造しているメーカーの方の記事だったので高音弦については情報が少ないですが、この雑誌の情報とネット上の情報から書いていきたいと思います。
(追記): フィガロ株式会社の薮 鈴太郎様からコメントをいただきました。
こんにちは(*゚▽゚*)!高音弦についての劣化についてですがフラットに当たって凹み真円度が下がる事と折り畳みされてた分子鎖が伸びきってしまうと縦方向に力が効率的に行きすぎるのでパツパツした音になります。
とのことです。
分子が伸びきると振動しづらい
まず最初の劣化は高音弦特有の劣化です。
高音弦と低音弦のどちらもナイロンが使われているのですが、その構造は大きく違います。低音弦は細いナイロン繊維を束ねたものが使われていますが、高音弦はモノフィラメントといわれ、1本の繊維からできています。つまり、低音弦のナイロン繊維の一本分が太くなったのが高音弦です。
このモノフィラメントは引っ張られると伸びる性質を持っていますが、伸びきってしまうと良い音が出ないのだそうです。
高音弦は張ってからしばらくは音程がどんどん下がりますが、これがまさに「伸びている」状態です。したがって、弾き始めるときに音が全然下がっていない場合は伸びきったといえるかもしれません。
ナイロンに限らずカーボン弦も同じモノフィラメントなので原理は同じかと思います。
低音弦もナイロン繊維なのだから同じなのでは?と思いますが、先述の雑誌によるとモノフィラメントでない低音弦はこの影響を受けづらいのだとか。
フレットと当たることによる劣化
高音弦もやはりフレットに頻繁に打ち付けられるのでこれによるダメージがあります。
高音弦の場合はナイロンがどんどん削れていきます。しばらく弾いた弦の裏を指でなぞっていると凸凹しているのがわかるかと思います。
高音弦は真円であるのが理想ですが、これが削れるとまず音程に影響が出ます。いくらチューニングしても音があわなくなる、ということですね。
また、おそらく真円でなくなることで弦の振動にも影響が出るでしょう。
さらに削れるのが進むと弦がそこから切れます。切れるとギターの表面版に弦が打ち付けられてキズができたりします。
巻きの間の異物が原因という研究も
上で紹介したのは現代ギターの記事ですが、これとは別に低音弦の劣化について真面目に研究した論文が存在します。
それによると、指の油分や水分が皮膚片と結びついてできる、1ミクロンほどの小さい異物が巻きの間に挟まると音が劣化するそうです。
詳細はこちらの記事を参照ください:
弦の交換のタイミングはどう判断する?
これまでの劣化の原因から、弦の交換のタイミングがわかります。
低音弦に関しては、
- フレットに当たる部分がへこんだり、中の芯線が見えた
- 青っぽい錆が発生した
ということが起きたら交換時です。
高音弦に関しては、
- フレットにあたる部分がへこんだ
- ギターの弾き初めに音が下がっていない
ということが起きたら交換時です。
ただ、これは一般的に、ということなので最終的には自分の感性で音が悪くなったな、と思ったら交換時かとは思います。
ちなみに私の場合、1日に平均1時間くらい弾くと低音弦が2、3週間、高音弦が3、4週間で交換したくなる音になります(サバレス クリエイションカンティーガ使用)。
これ以外にも交換すべき場合がある
このほかにも弦を交換すべき場合があります。
高音弦が不良弦
まず、一番多いのが高音弦の音程が正しくない場合です。一般的に不良弦といわれますが、弦の断面が真円でなかったり、太さが一定でないときにおきます。
この場合、どうしようもないので新しい弦に交換するよりほかありません。
高音弦の爪に当たっている場所がザラザラになる
高音弦が爪に当たるところは、特に爪の磨き方が十分でない場合、弾いているうちにだんだんと傷がついてきます。
そしてそのうちザラザラになってしまい、弾いた時に引っかかったりノイズが出たりします。こうなってしまったら交換です。
爪をしっかりと磨いて弾くことでザラザラになるタイミングを遅らせることができます。
低音弦が不良弦
高音弦ほど頻度は高くありませんが、低音弦も不良弦である場合があります。
交換前はビビらなかったのに、交換したらビビるようになった時は不良弦の可能性があります。この場合も高音弦と同様交換するしかありません。
ただし、特にテンションを落とした場合には弦の振れ幅が大きくなりフレットや指板に当たってビビっている場合もあります。フレットに当たってビビっているかどうかは確認が必要です。
弦の寿命を延ばすには?
これまでの弦の劣化の原理から寿命を延ばすにはどうしたらいいかを考えてみたいと思います。
弾かないときは弦の張りを緩める
最初に考えられることはギターを弾き終わったら弦の張りを緩める、ということです。
これは特に高音弦に効果があるものと思われます。低音弦も巻線が引っ張られている状態を緩和することで、巻線と芯線が一体でなくなるのを防ぐ効果があるかもしれません。
ではどれくらい緩めればいいのか?先述の雑誌では全音分(1弦だったらミ→レ)に下げることを勧めています。
一方、楽器としては弦を張った状態を想定して設計しているから緩めることはあまりよくないという説もあり、どちらがいいかはなんとも言えません。
弾き終わったら弦の表面の水分や汚れをふき取る
低音弦は錆によって音が劣化しますので、錆を発生させないことが重要です。
さすがに空気中の水分はどうしようもありませんが、人間が弾いたことによってついた水分や汚れをふき取るのは重要かと思います。
錆以外に小さい異物を固着する前に取り除く効果も期待できそうです。
これは特に毎日弾かない人に効果的と思われます。毎日弾く人は錆よりも他の要因で劣化する方が速いですので。
以下の記事で紹介したワイパーパッドを使うのもおすすめです:
また、弦の表面にオイルを塗布するグッズもあります。こちらならフィンガーノイズの低減効果もあります。
一度劣化した弦の音を復活させるというコンセプトのグッズもあります。
弾く前に手を洗う
そもそも汚れはどこから来るかというと手からです。
弾く前に手を洗えば汚れをおさえることができます。自分が思っている以上に手は汚れているものなので注意が必要です。
長寿命な弦を使う
弦自体を変えるのも効果的です。
寿命が長い低音弦
低音弦には様々な長寿命をうたった製品が出ています。
たとえば、最近リリースされたサバレスのカンティーガプレミアムはプロの間でも寿命が長いと評判になっています:
https://cooksealphoto.com/%E3%82%AB%E3%83%B3%E3%83%86%E3%82%A3%E3%83%BC%E3%82%AC%E3%81%AB%E3%83%97%E3%83%AC%E3%83%9F%E3%82%A2%E3%83%A0premium%E3%82%B7%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%BA%E3%81%8C%E7%99%BB%E5%A0%B4-%E6%96%B0/
プロアルテにはEXPコーティングという低音弦の表面をコーティングすることで寿命を延ばした製品が昔からあります。
また、プロアルテやハナバッハには従来の3倍寿命が長いという触れ込みの弦がリリースされています:
他にも、先述の雑誌で記事を書いているメーカーのFigaro(フィガロ)弦は低音弦の芯線にコーティングをすることで、巻線との一体振動を長く保てるようにしているそうです。
(追記):寿命の長さをうりにした弦を集めてみました。
https://cooksealphoto.com/%e5%af%bf%e5%91%bd%e3%81%ae%e9%95%b7%e3%81%95%ef%bc%88%e8%80%90%e4%b9%85%e6%80%a7%ef%bc%89%e3%82%92%e3%81%86%e3%82%8a%e3%81%ab%e3%81%97%e3%81%a6%e3%81%84%e3%82%8b%e3%82%af%e3%83%a9%e3%82%b7%e3%83%83/
長寿命をうたった高音弦はあまりない
一方、高音弦は低音弦に比べると音の劣化が少ないので、長寿命を売りにした製品はあまりありません。
製品というよりは、ナイロンではなくフロロカーボンを使った弦は、ナイロンに比べると表面硬度が高いので、長寿命といわれています。
サバレスのアリアンスが有名ですので、低音弦をカンティーガプレミアムにした以下のセットは寿命の点では最強かもしれません。
使っても使わなくても劣化する弦、どうせならしっかり弾いて劣化させたい
今回わかったのは、ギターの弦は弾こうが弾くまいが劣化していく、ということです。
それならばしっかり弾いて劣化させてあげた方が弦としても本望ではないでしょうか。
寿命が来た弦は再利用するかちゃんと分別してゴミに出しましょう。
https://cooksealphoto.com/%e3%82%af%e3%83%a9%e3%82%b7%e3%83%83%e3%82%af%e3%82%ae%e3%82%bf%e3%83%bc%e3%81%ae%e5%8f%a4%e3%81%8f%e3%81%aa%e3%81%a3%e3%81%9f%e5%bc%a6%e3%82%84%e5%88%87%e3%82%8c%e3%81%9f%e5%bc%a6%e3%81%ae%e5%86%8d/