クラシックギターの高音弦の形状は理想的には同一半径の真円であることが求められますが、製造上どうしても誤差が出ます。この誤差が大きいと音程が悪くなりいわゆる「不良弦」になり、和音がきれいに響かないこともあるでしょう。そんな不良弦に当たってしまったときの対策について解説します。
以下の記事で本ブログの弦の評価/レビュー/感想/情報記事をまとめています:
開放弦とフレットを押さえたときの音程が合わない不良弦
不良弦の種類には色々ありますが、クラシックギターの弦で良くあるのが開放弦とフレットを押さえたときの音程が合わない不良弦です。
たとえば最近私が張ったサバレス ニュークリスタルの1弦では、以下の画像のように開放弦では331.1Hzなのに、12フレットを押さえると理論値である倍の662.2Hzではなく667.5Hzと、5Hz以上狂っていました:
これだけ狂うとハイポジションになればなるほどほかの弦と音が合わなくなり、弾いていて気持ち悪くなります。
現代の技術では避けられない不良弦
高音弦は原料を溶かし、押し出し機と言われる機械で成形し、冷やして作ります。詳細は以下の記事を参照ください:
残念ながらこの製造方法では半径が同一で真円の形状をした弦を作るのは難しく、必ず誤差が生まれます。
以前はオーガスチンは音程の悪い弦が多く、プロアルテは音程の良い弦が多いという印象がありましたが、最近はオーガスチンも音程の悪い弦が減ったように思いますので、メーカーも改善はしているようです。しかしながら、根絶はされていません。
さらに残念なことに、弦メーカーのなかで不良弦を交換してくれるとメーカーはなく、消費者は不良弦に当たっても自分でなんとかするしかありません。
不良弦に当たってしまったときの対策
それでは、不良弦に当たってしまったらどのように対策すれば良いのでしょうか。
わざと調弦をずらす
1つ目の方法はわざと調弦をずらすというものです。
不良弦の場合、開放弦で音を合わせると一般的にハイフレットに行けば行くほど音がずれます。そこで、開放弦ではなく中間のフレットを押さえた状態で調弦することで、ずれの大きさを分散するというアイデアです。
不良弦の音が特に目立つのは同じ音あるいはオクターブが違う同じ音を弾いたときなので、曲のなかでそのような音が出てくる場合はその音で調弦すると良いでしょう。
また、よく出てくる和音がきれいに響くように調弦するのも1つの手です。
左手で弦を引っ張って音をずらす(チョーキング)
2つ目の方法は、左手で弦を引っ張って音をずらすという方法です。
いわゆるチョーキングというものですが、弦を引っ張ることで音程をずらし、正しい音程に近づけます。
音程を上げる場合は弦をヘッド方向あるいは横方向に引っ張って張力を高め、下げる場合はブリッジ方向に引っ張って張力を下げてください。
引っ張る量はフレットによって変わり、微調整は難しいですので、この方法も大事な音のときのみ使うのが現実的でしょうか。
あきらめて交換する
一番確実なのは、あきらめて交換するという方法です。
幸い高音弦は低音弦に比べると安いので、それほど費用がかからないのがせめてもの救いです。
ただ、弦によってはバラで売っていないことがありますし、バラ弦がすぐに手に入らない環境にいる方も多いかと思います。
オーガスチン、プロアルテ、サバレスあたりはネットでもバラ弦で手に入りやすいです。
プロのなかには高音弦を大量に買っておき、そのなかから音程の良いものを選んで使っている人もいるようです。
音程の悪さはギター本体が原因のことも
弦を交換しても音程が改善されなかったり、1つの弦だけでなく複数の弦の音程が狂っていたりする場合は、ギター本体が原因の可能性があります。
たとえばネックの反りが大きくなると音程が狂うでしょう。
また、フレットを打ち込む位置がもともと狂っている楽器もあるようです。特に安い楽器ではこのケースが考えられます。
ギターの調弦が100%合うことはない
注意したいのは、ギターという楽器は調弦が100%合うことはないという点です。
平均律で調弦される以上、かならず和音の濁りが生じます。詳細は以下の記事を参照ください:
弦長補正によって改善する試みはありますが、原理的に合わない以上、どうやってもずれは生じます。
このため、音程についてはある程度妥協が必要といえます。
現状はクラシックギターの宿命として自分で対策するしかない
ほかの製品なら初期不良として交換されそうな不良弦ですが、残念ながらクラシックギター弦に関しては音程の悪い不良弦を交換してくれるメーカーはありません。
このこと自体がおかしいような気もしますが、現状はクラシックギターの宿命として自分で対策するしかないでしょう。
音がきれいに響かないとギターを弾いていて楽しくありません。ぜひ音程の良い弦を使って演奏をしてください。