ヴァイオリンのストラディバリウスやギターのトーレスといった楽器の音は素晴らしく、これだけさまざまな技術が発展した現代でもこれらを超える楽器は作られていません。その理由をさまざまな研究者が解明しようとしていますが、また1つ新たな特徴が明らかになりました。木部と塗装のニスの間にタンパク質系の化合物が存在することがわかったそうです。
ストラディバリウスのニスと木部の間にコーティングが存在
この研究はイタリアのCERIC-ERICなどの研究者によっておこなわれました。
これまでの研究で、ストラディバリウスが製作した楽器には、塗装であるニスの下に隠れたコーティングが存在することがわかっています。
しかしながら、これまでの研究で用いられた放射光フーリエ変換赤外分光法ではそれが何なのかわからなかったそうです。
このブログでは過去にもストラディバリウスについての最新研究を解説しています:
17世紀〜18世紀の名器を赤外線散乱式走査型近接場顕微鏡で分析
そこで研究チームは赤外線散乱式走査型近接場顕微鏡(IR s-SNOM)を使って分析することにしました。
これは数十ナノメートル単位で化学組成に関する情報を収集できる装置であり、従来よりも精度良く分析できます。
分析には1718年製のサンロレンツォと1690年製のトスカーノという、ストラディバリウスと同時代の貴重なヴァイオリンが使用されました。
タンパク質系の化合物がナノサイズの斑点状に集まっていることが判明
分析の結果、ニスと木部の間にはタンパク質系の化合物がナノサイズの斑点状に集まっていることがわかったそうです。
このような極小サイズの化合物が木の表面の凹凸を埋め、なめらかにすることで音質に良い影響を与えている可能性があります。
ただ、この「タンパク質系の化合物」の正体が何なのか、そしてどうやって木部とニスの間に塗布したのかは明らかにされていません。
IR s-SNOMでトーレスを分析してほしい
今回の発見は必ずしもストラディバリウスの音の秘密が判明したとは限らず、現代の楽器と過去の名器の「違いの1つ」がわかったに過ぎません。
とはいえ、こうやって1つ1つ違いを見つけていくことでだんだんと名器の秘密に近づけるのでしょう。
クラシックギターファンとしてはできればトーレスのギターをこのIR s-SNOMで分析してほしいものです。
残念ながらクラシックギターはヴァイオリンに比べてマイナーなので、研究の価値やスポンサーの質や量でかなわず、なかなかこの手の研究対象にはなりません。
良い音が手軽に奏でられるようになれば、よりクラシックギターの裾野が広がると思うので、今後の研究に期待したいと思います。