木でできているクラシックギターには常に傷がつくリスクがあります。普通についていていつの間にかついてしまった傷はそれほど気になりませんが、弦飛びによる傷はかなりショックが大きいです。このようなことが起きないためにどのようにすればいいでしょうか。また、音への影響や修理や補修についてはどうでしょうか。
クラシックギターのメンテナンスに関する記事は以下の記事にまとめてあります:
弦飛び/弦跳ねとは
クラシックギターにおいて弦飛びや弦跳ねとは、結び付けられている弦が何らかの要因ではずれ、表面板に弦が打ち付けられていることを言います。
その衝撃はかなりのもので、表面板の塗装を貫通して木部にまで達することもあります。
弦飛びや弦跳ねは以下のような場合に起きます。
ブリッジから弦が外れる
これは主に高音弦で起きます。
クラシックギターの弦は一方の端をブリッジに取り付けて固定するわけですが、ここの固定が甘いと弦がブリッジから外れてしまいます。
すると、高い張力で張られていた弦がゴムのように一気に縮もうとします。縮む際に弦が四方八方に暴れるのですが、表面板にも打ち付けられます。これにより傷がつきます。
このような弦飛びや弦跳ねが起こる場合はブリッジの弦を結び付ける側(サウンドホールと逆側)に傷ができます。
低尾弦は巻弦のためブリッジの結び目で巻き同士が触れ合うことで摩擦が起き比較的取れやすいです。しかしながら、高音弦は表面がツルツルのためこのような抵抗がありません。さらに細い弦ほど弦飛びが起きやい上に飛んだ際の破壊力が高く、カーボン弦の1弦はかなり危険といえます。
弦が切れる
弦が切れた場合にも起きます。
この場合はどこで弦が切れたかによって傷の場所や深さが変わります。指板の上であればそれほど大きな傷はつかないですが、表面板の上で切れた場合は危険です。
切れやすいのはやはりフレットと当たるところですが、弦の製造上の問題の場合はどこで切れてもおかしくはありません。
弦飛び/弦跳ねによる楽器への影響は?
では、弦飛びや弦跳ねによって表面板に傷がついた場合、楽器にどのような影響があるでしょうか。
貫通しない限り音には影響しない
表面板に傷がつくとまず気になるのが音への影響です。
一般には、表面板が貫通するような傷でなければ音質への影響はないといわれています。
プロが使っているギターには多くの傷がついていますがそれでも大きくいい音がしています。弦飛びでつく小さな傷程度では楽器の音には影響しません。
見た目には大きな影響がある場合も
音には影響しなくても見た目としては大きな影響がある場合があります。
まず、弦飛びの傷が塗装を超えて木部まで達している場合です。この場合、きれいに塗られた表面板の中で一か所だけ明らかに色が違う個所が出てしまいます。これは意外と目立ちます。
また、高音弦ではテンションや弦の種類を見分けるために端に色が塗られている場合がありますが、ここが表面板に当たるとこの色が表面版に移ることがあります。青、紫、赤と言った色が塗られることが多いですが、これが表面板につくと目立ちます。私は依然これをやってしまいかなりへこみました。確かハナバッハだったかな。。。
中古での売却や下取り価格に影響がある場合も
楽器としての価値を考えると、やはりきれいな楽器の方が価値はあるといえます。
その意味では将来的にその楽器を売ったり下取りに出したりする場合に価格に影響がある可能性はあります。
心理的な影響は結構ある
弦飛びや弦跳ねが起こった場合に一番影響があるのは楽器よりも、それをやってしまった本人の心だと思います。
楽器を見るたびに、弦を変えるたびにその傷が見えてしまうため、残念な気持ちになります。
せっかく楽しくギターを弾こうというときにこのようなことがあるとテンションが下がってしまいます。
修理や補修はしない方がいい場合も
弦飛びや弦跳ねの傷が完全に直るかというとそれはできません。
特に木部まで達している場合は物理的に木が削れた状態なのでどうしようもありません。この場合は塗装を直してもやはり見た目でわかります。
木部まで達していなければ塗装自体は塗装の週類によってはタッチアップや塗り直しができますので見た目をきれいにすることはできます。
しかしながら、 特に塗り直しの場合には音への影響が避けられません。もちろん費用も掛かります。
また、セラックやラッカーであれば比較的容易に補修ができますが、量産品によく使われるウレタン塗装の場合は難しいです。
コレクション用の楽器なら修理をしてもいいかもしれませんが、前述の通り音への影響はないといわれていますので、修理や補修をしないという選択肢の方がいいかと思います。
どうしても気になるようならギター専門店に持ち込んで、修理する場合のリスクや費用について相談するのがいいかと思います。
弦飛び/弦跳ねを防ぐために
弦飛びや弦跳ねは起きないことが一番です。どのように防止すればいいでしょうか。
弦をつけるときの工夫
高音弦は結び目を作る
弦飛びで一番多いのはブリッジから弦が抜けてしまうことです。
これを防ぐには高音弦の端っこを結んで結び目をつけるのが良いです。
こうしてしまえば弦が抜けようとして引っ張られると逆に結び目がきつくなり抜けません。
高音弦の端をライターであぶって玉を作る
結び目を作るのが面倒な人は高音弦の端をライターであぶるという方法もあります。
あぶると高音弦の端が丸まって玉のようになります。ここが引っかかって抜けにくくなります。ちなみに、ロイヤルクラシックスの弦はこの玉が最初からついており親切です。
ただし、この方法は逆に玉の横の部分が細くなり弦が切れやすくなる可能性もあります。念のため玉の周りの状態を確認してから弦をつけたほう良いです。
段ボールやはがき、布を表面板に乗せて弦交換する
弦は安定してしまえば意外とブリッジから抜けなくなります。逆に言うと弦飛びが起こるの可能性が高いのは圧倒的に弦をつけているときです。
この時に弦飛びが起きてもいいように、表面板を保護するものを載せておくと安心です。
具体的には、
- 段ボール
- はがき
- 布
といったものをブリッジのサウンドホールと反対側に置きます。念のためサウンドホール側にも置いておくと安心です。
楽器への工夫
弦留めチップを使う
スーパーチップのような弦留めチップを使うと弦飛びが起きづらくなります。
ただし、起きづらくなるだけで起きなくなるわけではありません。この方法は他の方法と併用することをお勧めします。
表面板に傷防止シートをつける
ギターの表面板を保護するシートをつけておけば弦飛びが起こった際に傷を防止することができます。
ラスギャードの際に爪が当たる場所につけておけばその傷も防ぐことができます。つけたりはがしたりが可能なので、音への影響が気になるのであれば弦交換の時だけつけておくという手もあります。
ただし、100%傷を防ぐ保証があるわけではないので安心材料です。他の方法の併用をお勧めします。
古い弦を使いすぎない
弦はどうしても古くなると切れやすくなります。
このため、弦が切れることによる弦飛びを防止するには古い弦を使いすぎないことが重要です。
また、日ごろから弦の状態を見ておくことも重要です。2フレットに当たるところが摩耗しやすいのでここの状態を見ておくと安心です。
演奏による傷は勲章だが弦飛びの傷はただのミス
演奏によって傷がついたギターというのはそれはそれで味があっていいものです。そのギターが愛されたことにより思いっきり演奏された証でもあります。
一方、弦飛びによってついた傷はただの失敗です。これも心理的にショックを受ける原因かと思います。
弦飛びによる傷はちょっとしたことで防ぐことのできる傷ですので、愛する楽器のためにも気を付けてあげましょう。