クラシックギターの弦にはテンションという指標があります。弦の張りの強さを示すものですが、同じ弦でも異なるテンションがラインナップされていて選択に迷うこともあります。この記事ではそれぞれのテンションの特徴と、どのテンションの弦を選ぶべきかについて書きたいと思います。
以下の記事で本サイトのクラシックギターの弦関係の記事をまとめています。
そもそもテンションの違いとは?
テンション=弦の太さ
弦のテンションは一言でいうなら弦の太さです。
こちらの記事でも書きましたが、同じギターかつ同じ素材の弦であれば、弦の張力は弦の長さ当たりの重さに比例します。
なので、たとえばプロアルテのノーマルテンションとハードテンションは同じ素材なので、違いは太さということになります。
もちろん、異なる弦であれば素材や比率も異なる可能性が高いのでこの限りではありません。
テンションの呼び方に統一した基準があるわけではない
注意したいのは、ロー、ミディアム、ハードといったテンションの呼び方に業界で統一された基準があるわけではないという点です。
さらに、同じメーカーでも弦の種類によって同じ呼称でもテンションの強さはまちまちです。
このため、ある弦でノーマルテンションがちょうどよかったので他の弦でもノーマルテンションを選んでみたらテンションが強かった、ということも起こります。
また、1~6弦のそれぞれの弦のテンションのバランスについても特に統一された基準はありません。
このため、1弦だけやたらと強い弦もあれば、比較的フラットなものもあります。
テンションは強くなる傾向にある
近年の傾向として、弦のテンションは強くなる傾向にあります。
昔はローテンションの弦も多かったのですが、最近発売される弦ではそもそもメーカーがミディアムとハイテンションしかラインナップしないケースが多いです。
ダブルトップなどに代表される、ギターの音量重視の傾向がここにも表れているのでしょう。
ローテンションが悪いわけではない
しかしながら、ローテンションの弦が悪いというわけではありません。
コユンババで有名なドメニコーニはハナバッハのスーパーローテンションを好んで使っていたといいますし、世の中の流行に流されずに自分の好みで選べばいいと思います。
テンションごとの特徴
それでは、テンションが弱い場合/強い場合に音や弾き心地にどのような特徴が生まれるのかについて書きたいと思います。
上に書いた通り、テンションの呼称はあくまでの同じ弦の中での相対的なものです。このため、異なる種類の弦の間で比較するとまた違ったものになります。
以下の表がざっくりまとめたものです。3段階であらわすために”×”を使っていますが、だめという意味ではありません。
ロー | ノーマル/ミディアム | ハイ/ハード | |
音量 | × | △ | 〇 |
音の伸び(サステイン) | 〇 | △ | × |
アクセントのつけやすさ | × | △ | 〇 |
音色の多彩さ | 〇 | △ | × |
左手の押さえやすさ | 〇 | △ | × |
速弾きのやりやすさ | × | △ | 〇 |
ヴィブラートのやりやすさ | 〇 | △ | × |
ローテンション
ローテンションの弦の良さは音色の多彩さにあると思います。
柔らかい音から硬い音まで、音色の変化がつけやすく、ギターらしい音を生み出すことができます。
また、テンションが低いと左手が押さえやすく、特にセーハがやりやすいです。また、ヴィブラートもやりやすいです。
一方、音量という意味では上限が制限されます。同じ音量に対して弦の振れ幅が大きくなり、大きな音を出そうとするとどうしてもフレットや指板にあたってしまいます。
また、音の伸びがよく振れ幅が大きいことは、逆に速弾きするときにまだ弦が大きく振動しているときに再度弾くことになり、弾きづらいこともあります。
個人的にはプロのギタリストでもなければローテンションの弦は決して悪い選択肢ではなく、むしろ楽しんで弾くにはいい選択肢だと思います。
テンションの特に低い弦に関してはこちらの記事で具体的に紹介しています。
ノーマル/ミディアムテンション
中庸の弦の張力のものはノーマルテンション呼ばれたり、ミディアムテンションと呼ばれたりします。
特徴はローテンションとハイテンションの中間です。
というと芸がないですが、弦メーカーが標準的なテンションとして設定されている弦なので新しい弦を試すときはまずはこのテンションを選ぶのがいいかと思います。
ハイ/ハードテンション
強めの張力の弦はハイテンションとかハードテンションと呼ばれます。
この張力の弦の特徴はなんといっても音量とアタックの強さです。弦が太くなれば同じ音量に対して振れ幅が小さくなるため、フレットや指板に当たるまでに出せる音量が大きくなります。
また、アクセントなどで鋭い、遠くまで通るような音も出しやすいです。
振れ幅が小さいため右手の速弾きもやりやすいです。
一方、特にプロでないギタリストにとっては左手の押さえる力がいることがネックになります。また、大きな音が出せるということはそれだけ弾くのに大きな力と技術がいるので、足らないと詰まったような音になってしまいます。
強い張力はギターにかかる負担も大きくなるため、あまりにも古い楽器には使うべきではありません。また、製作者によってはハイテンションの弦を使わないよう推奨されている場合もあります。
テンションが高い弦は単音だけ弾いていると迫力がある音が出せるのですが、曲を弾くときにハイテンションの特徴を活かすのはなかなか難しいです。ただ、最近の流行としては大音量が一番なので、ハイテンションという選択肢はあっているとも言えます。
テンションの特に高い弦に関してはこちらの記事で具体的に紹介しています。
テンションの選び方
それではどのように弦のテンションを選べばいいでしょうか?
まずはノーマル/ミディアムテンションを試す
新しい弦を試す場合はまずはノーマルテンション/ミディアムテンションを試すべきです。
これは弦メーカーがその弦の標準的な張力として設定しているものであり、音の特徴も標準的といえるためです。
まずはこれを試し、不満があればテンションを変えましょう。
左手がきつければ迷わずローテンション
弦によっては左手がきついことがあります。
この場合は迷わずにローテンションにしましょう。腱鞘炎になるとギターだけでなく生活にも支障をきたすうえ、治るのに時間がかかります。
いや、左手がきついのはテンションじゃなく左手の脱力とかの技術の問題だ、という意見もあるかもしれませんが、体格が一人一人違うように左手の力も違います。まずは張力をローテンションに落とし、そこで脱力を含めた技術を向上させるのもいいかと思います。
ただし、テンションの高い弦を弾くときに力でねじ伏せるような弾き方をしていてはだめです。以下の記事にも書きましたが、弦のテンションをいなして利用するような弾き方をしましょう。
迫力が欲しければハイ/ハードテンション
音に迫力が欲しければハイテンション/ハードテンションの弦に変えましょう。
音の大きさ、アタックの鋭さに関しては張力の強い弦に勝るものはありません。
ただし、自分の技術が追い付かないと全体的に詰まったような音になります。この場合はノーマルテンションで大きく鋭い音が出せるように技術を向上してからにしましょう。
柔らかい音から硬い音まで出したければローテンション
音色として柔らかい音を出したければローテンションの方がいいです。
テンションが高くなるとどうしても音が鋭い音になる傾向にあります。ローテンションでも硬い音は右手の弾く場所や爪の角度で出せるので、多彩な音を出したければローテンションです。
ギターとの相性もあるので食わず嫌いは厳禁
1つ難しいのは、ギターによってローテンションの方がいい音が出る場合とハイテンションの方がいい場合があるという点です。
これは必ずしもギターとの相性に限らず、演奏者とギターの組み合わせとの相性とも言えます。
こればっかりは試してみるしかありませんが、自分が好きじゃないと思っていたテンションの方がいい音が鳴るというケースも良くあります。
食わず嫌いせずに試してみてください。
テンション1つでギターの音や弾き心地は大きく変わる
自分のギターの音に満足がいかないことは良くあります。
そんな時はギターの買い替えや自分の技術の向上にこだわらず、弦のテンションを変えてみるのもいい手です。
値段や時間を考えても買い替えや修行よりも手っ取り早いです。
せっかく世の中に弦はあまたあるので、最高の1セットを見つけたいものです。