クラシックギターの教本といえば?といわれてまず思いつくのはカルカッシ、青本といったところかと思います。しかしながら、昔ながらの教本は今時の奏法にあっていないところも。おすすめなのはスコット・テナントが書いているPumping Nylonです。
クラシックギターの練習についての記事はこちらのカテゴリーも参照ください:
また、おすすめの教則本についてはこちらの記事を参照ください:
スコット・テナント(Scott Tennant)とは?
スコット・テナントはアンドリュー・ヨークも所属していたロサンゼルスギターカルテット(LAGQ)のメンバーで、ソロでの活動も精力的に行っています。
クラシックギターの教育者としても有名であり、Pumping Nylonは広く使われています。
Pumping Nylonはそんな現代のギタリストが書いた教則本ということで、興味があり、買ってみました。
“Pumping Nylon”はどういう意味?
そもそも日本人にとっては”Pumping Nylon”ってどういう意味?というところから始まるかと思います。
実はターミネーターシリーズで有名なアーノルド・シュワルツネッガーが出演した映画に”Pumping Iron”という作品があり、これからとっているものと思われます。
この映画はボディービルダーを取り上げたドキュメンタリー映画なのですが、ボディービルダーがどういうトレーニングをしているかとか私生活についても取り上げています。
ひたむきにトレーニングを行うボディービルダーになぞらえて、ナイロン弦を弾くクラシックギタリストのトレーニングの本だという意味でこのタイトルをつけたのでしょうね。
このため、本の表紙もボディービルダーらしき人の腕が載っています:
ちなみに、日本語版では「課題別テクニックを習得する新しいアプローチ」というタイトルになっており、せっかくのしゃれの利いた原題が使われていません。。。
プランティング(Planting)の概念を明らかにしたことで有名
このPumping Nylonの功績は何といっても、プランティング(Planting)の概念を明らかにしたことです。
プランティングとは現在ではクラシックギターのテクニックとして当たり前になっているもので、右手の指を弦を弾く前に弦の上に置く技術です。
“Planting”とは種まきとか植え付けを意味し、弦を弾く前の準備という意味でこの単語を使っているのでしょう。プランティングについては以下の記事も参照してください:
この技術はプロのギタリストの間では無意識あるいはそれぞれでやられていた技術ではあるのですが、これをすべてのクラシックギタリストに必要な技術として教本に掲載したところが新しいです。
このほかにも弦を弾くときは爪を斜めに使うなど、現代では普通になっている奏法が説明されています。
アンドリュー・ヨークやブライアン・ヘッドなどの現代のギタリストの曲を練習曲として使用
普通の教本はいわゆる昔ながらの作曲家の曲を練習曲として使っています。
タレガだったり、ソルだったり、もちろんそれらは名曲ではあるのですが、必ずしも現代の技術の練習に有効であるとは限りません。
これに対してPumping Nylonではアンドリュー・ヨークやブライアン・ヘッドといった現代の作曲家の作品を練習曲として掲載しています。
もちろん、ソルなどの昔ながらの作曲家の曲も練習曲として取り上げられていますし、特にジュリアーニの120のアルペジオは重要なアルペジオ練習曲として掲載されています。
日本語版も存在
Pumping Nylonはもともと英語の教則本なのですが、日本語版もあります。日本語版は「課題別テクニックを習得する新しいアプローチ」というタイトルです。
英語版は1冊にまとまったものもあるのですが、日本語版は3巻に分かれています。
まず最初が技術について書かれている巻です。ギターの構え方から爪の形、基本的な奏法など初心者から自分の奏法を見直したい人まですべての人にお勧めです。
次が初級・中級の練習曲を収録した巻です。それぞれの曲にはどの技術のための練習曲なのかが明示されており、自分が練習したい技術について集中的に取り組めます:
そして、最後が中級~上級の練習曲を収録した巻です。こちらもどの技術のための曲なのか書かれていますが、より上級で実践的な内容です:
英語版と日本語版どちらを買うべきか?
英語版にはこれら3巻が1冊にまとまったものがありお買い得です。
私は英語版を買いましたが、それほど難しい英語で書かれていないこともあり、特に問題はありません。
しかしながら、音楽の用語は日常会話とは異なるので意味を取り違える可能性もあります。細かい言葉のニュアンスまで知りたいのであれば日本語版を買うべきかと思います。
なお、英語に自信がない方もスマホのカメラでかんたんに翻訳ができるので、輸入楽譜や教本を買った際はぜひ使ってみてください。
やりきるには時間がかかるけどやりごたえがある
英語版では200ページ以上もあるので全部をやりきるのは時間がかかって難しそうですが、非常にやりごたえはあります。
特に、現代的な奏法を勉強したかったり、あらためてクラシックギターの基礎をやり直したい人にはいい教本だと思います。爪の形の選び方から説明されており、あらためて読むとためになることが多いです。
年をとっても長く引き続けるには基礎練習が重要といわれています。好きな曲だけを弾くのも1つの形かとは思いますが、生涯にわたっての趣味にしたいならこういった教則本にも取り組んでみてはいかがでしょうか。