弦高はギターの弾きやすさだけでなく音にも影響する重要な要素ですが、それだけに自分でメンテナンスを行う際は注意が必要です。今回は弦高を上げるために世界最薄0.15mmを誇る極薄の天然木「森の紙」を使ってみました。
「裏鳴り」修理のための弦高調整
今回現高調整をしようと思ったきっかけはいわゆる「裏鳴り」の発生です。
詳細は以下の記事で解説していますが、弦を押さえた際に、弦がブリッジ側ではなくナット側のフレットと接触しビビり音が発生する現象を指します。
修理にはさまざまな手段がありますが、そのなかの1つがナットの弦高を上げてフレットと接触しないようにするというものです。
ナットを作り直すのは自分では難しく、費用と時間もかかるため、今回は自分でできそうなナットの底上げという方法を採ることにしました。
底上げに使う素材や厚みが音や弾きやすさに影響しそう
底上げするのは非常に簡単で、ナットの下に何かを挟めばよいだけです。
ただ、ブリッジに比べると影響は少なそうな気はしますが、弦の振動はナットからネック、そしてボディへと伝わるでしょうから、下手な物を挟むと音が悪くなりそうです。
また、厚すぎる素材だと弦高が高くなりすぎて弾きづらくなりそうですし、厚みが均一でないとナットが安定せず音に影響しそうな気がします。ナットの穴にピッタリはまるサイズにするための整形しやすさも大事でしょう。
このため、世の中でよく使われるのがA4のコピー用紙です。非常に薄いので弦高を細かく調整できますし、切るのも簡単、安いので気軽に使いやすいのもうれしいポイントです。
また、ネット上には厚紙やプラスチックの板を使われている方もいました。
ただ、定番のものでは面白くない、ということで新しい材料を試すことにします。
木でできた折り紙を試す
いろいろとネットを探して見つけたのが、「森の紙」というブランドが出している木製の折り紙でした:
独自技術で世界最薄0.15mmの木の板を実現
独自の技術によって世界最薄の厚さ0.15mmを実現しており、折り紙以外にも壁紙やインクジェットプリンター対応の紙やはがき、さらには名刺もラインナップされています。
そんななかで私が注目したのが薄さ0.15mmという特長を生かした木の折り紙。いわゆる一般的なコピー用紙の厚みは0.08mmから0.10mmなので、その1.5倍から2倍ほどの厚みしかありません。
この厚さなら加工も簡単でしょうし、弦高の調整も細かくできます。
アグアドもナットの下に木の板を挟んでいた
音の面から考えると、木の楽器であるギターにはなんとなく木でできた素材がよいのでは?という気がします。
実際、アグアドのギターもナットの下に黒檀の板を張り付けていたようです。
折り紙の素材には残念ながら黒檀はなく、ひのき、杉、ウォルナットの3種類があります。、なんとなくギターらしいという意味でウォルナットを購入してみました(ここでいう杉はギターの表面板に使われる杉ではなく、スギ花粉の杉と思われます)。
持った感触はまさに折り紙
パッケージはこんな感じで、持った感触は木という感じはまったくせず、まさに折り紙です:

それでいながら触ってみると木の風合いなのが不思議。一方、裏には紙の繊維のような素材が貼り付けられていました:

おそらく、木だけだともろすぎるので、柔軟性を出すためにつけているのでしょう。
パッケージの裏面には「この商品は天然木ですので木の持つ性質により自然変形や変色する可能性がある」とあります。望むところです:

ナットを型にカッターで切り出す
折り紙サイズをそのまま使うわけにはいかないので、ナットの穴に合うよう切り出します。以下の写真のように、ナットの周りにカッターの刃を沿わせるように切ってみました:

さすが0.15mmだけあって「紙のように」簡単に切れます。
苦労したのはナットが滑って動いてしまうという点。大きめに切り出してあとから微調整するのがよさそうです。
ちなみに上のナットはハウザー2世のものなのですが、裏面に制作年(1967年)と楽器のシリアルナンバーが書かれていました。オリジナルの物だったとは・・・。
ピッタリサイズに切り出せました:

ナットの穴に置きました。まったく違和感ありません:

3枚重ねの+0.45mmで「裏鳴り」が解消
このようにして作った木の下敷きを挟み、まだ「裏鳴り」が起きていたら下敷きを追加し、ということを繰り返し、結局3枚重ねの+0.45mmで解消しました。
横から見ると挟まっているのがよくわかります:

1967年当時のオリジナルのナットなのでかなり削れていたのかもしれません。いずれは作り直さないと、と思っています。
肝心の音ですが、「裏鳴り」が解消されたことでビビりがなくなり、全体的にすっきりとクリアな音になりました。
主に発生していたのは6弦の7フレットなのですが、実は気づかないうちにほかにも発生していたようで、ここだけでなくいろいろな場所でノイズがなくなり、気持ちよく弾けるようになりました。
今まで弦をしっかり押さえられていないのでビビっていると思っていたなかには、「裏鳴り」が原因であるものが少なからずあったようです。
「裏鳴り」が発生していなかった音については、多少音が柔らかくなったような気もします。ただ、注意して聞くとというレベルですし、下敷きの状態が落ち着いていくでしょうから、いずれは気にならなくなるはずです。
木にこだわって弦高調整したいなら「木の折り紙」がおすすめ
今回木の折り紙で弦高調整をしてみて、結果的には非常によかったです。
薄くて加工性が高く、値段も安いので気軽に試せます。コピー用紙や厚紙、プラスチックの板でも実際には問題ないのかもしれませんが、何より「木をつかっている」という点がなんとなく精神安定上よいです。
外せば元に戻せますし、0.15mmの厚さなので細かく調整ができるのも魅力的と言えるでしょう。
今回はナット側の弦高を上げるのに使いましたが、ブリッジ側に使っても問題ないと思います。
私のように「裏鳴り」に悩んでいる方はもちろん、弦高を上げてみたい方もぜひ試してみてください。