弦を弾いて木を振動させる必要があるクラシックギターは、電子楽器などと異なり、演奏者がその場にいないと音を聴けないのが当たり前でした。これに対しヤマハはトランスアコースティック技術を利用し、遠隔地からプロの生楽器の演奏を届けられる「Real Sound Viewing」を開発しています。
表面板を電気で直接振動させるトランスアコースティック技術
トランスアコースティック技術とは、ギターやヴァイオリン、チェロといった響板を持つ楽器に対し、電気信号で響板を振動させて音を出す技術です。
クラシックギターとしてもトランスアコースティックギター「CG-TA」が発売されています。
CG-TAでは演奏者による弦の振動に加え、電気的に処理した振動を加えることでリバーブなどのエフェクトがかけられます。
すべての音をトランスアコースティック技術で出す「Real Sound Viewing」
CG-TAでは演奏者による弦の振動がメインで、トランスアコースティック技術は補助的にしか使われていませんでした。
しかしながら、「Real Sound Viewing」ではすべての音をトランスアコースティック技術で出すことで革新的な音楽体験を可能にしています。
ある場所で演奏者が楽器を演奏すると、その弦の振動が電気信号に変換されます。そして、その電気信号を使って遠隔地の楽器の響板がトランスアコースティック技術で振動させられ、生楽器によるプロの演奏が遠隔地で楽しめるわけです。
これまで演奏を遠隔地に届けるにはマイクとスピーカーを使うのが一般的でしたが、より生音に近いリモートコンサートがおこなえそうです。
歴史的名演の記録にも
この技術は単にリモートコンサートに使えるだけではありません。
たとえば歴史的な名演の振動情報を記録しておけば、それをいつでも再現できるようになります。
原理的にはフルオーケストラすべての楽器の振動を記録し、再現することも可能でしょう。
クラシックギターはマイクで録音するのが難しいと言われていますが、この技術ならより名演を実物に近い音で楽しめそうです。
100%再現は難しそう?
ただ、クラシックギターには楽器をたたくなどの特殊演奏が求められるケースがあります。
振動を再現するアクチュエーターは、1カ所に設置しただけであらゆる振動を再現させられるとは思えないので、再現したい奏法の分だけアクチュエーターが必要になるなど、すべての楽曲の再現は難しいかもしれません。
また、マイク同様弦の振動を電気信号に変換する時点で失われたりゆがんだりする情報もあるでしょうから、どの程度本物に近い音が出るのか疑問が残ります。
トーレスなどの歴史的な名器で出した音が、トランスアコースティック技術で出せるかどうかもわかりません。
生楽器の可能性を広げる技術として期待したい
現時点では完全再現は難しいかもしれませんが、Real Sound Viewingは生楽器の可能性を広げる素晴らしい技術だと思います。
コンサートだけでなく楽器のレッスンに使ったり、より高い音質で好きな奏者の演奏を楽しんだりと、音楽の楽しみ方を一変させる可能性もあるのではないでしょうか。
今後の発展にも期待したいと思います。