クラシックギターの中で唯一といっていい金属かつ機械的な部品が糸巻(ペグ)です。ここだけはギターのほかの部分とは違うメンテナンスが必要になります。最高級といわれるロジャースがおすすめするメンテナンス方法も紹介します。
クラシックギターのメンテナンスに関する記事は以下の記事にまとめてあります:
機械的な部品であるクラシックギターの糸巻
クラシックギターの糸巻はある意味変わったパーツです。基本的に木でできているクラシックギターの中でほぼ唯一といっていい機械的な部品です。
糸巻の機械的な構造や歴史は以下の記事を参照していただくとして、この記事では掃除、メンテナンス、注油の方法を紹介したいと思います。
糸巻(ペグ)の掃除
分解掃除はお勧めしない
まず、糸巻の分解掃除はお勧めしません。
機械的な部品である糸巻は高い精度で組付けられており、ちょっとでもずれるとスムーズに動かなくなります。高い糸巻ほどこれが当てはまります。
よっぽど動きが悪くなりどうにもならなくなったら分解洗浄してみてもいいかもしれませんが、交換するか否かの最終手段にした方がいいかと思います。
ちゃんとメンテナンスと掃除をしていけば糸巻は本来何十年も使えるものです。
洗剤や研磨材も使わない
また、洗剤や研磨材を使っての掃除もお勧めしません。
糸巻は単なる金属ではなく、メッキやスムーズに動くためのコーティングが施されています。
たとえばゴトー(GOTOH)の510シリーズにはLubri-Plateと呼ばれるコーティングが施されています:
洗剤や研磨材を使用するとこのようなメッキやコーティングを痛めることになりかえって動きが悪くなる可能性があります。
注油前に汚れを取ることは重要
では掃除はしない方がいいかというとそうでもありません。
ペグはもともと注油されていて表面には油分があります。この油分は多少なりともべたついており、空気中の汚れをひきよせます。この汚れの中にはガラス(ケイ素)などの非常に硬い粒子も含まれており、これが歯車の中でかみ合うと金属部品やコーティングを痛めます。
この上からさらに注油をするとこのような硬い粒子をさらに取れづらくすることになるため、まずは汚れを取ったうえで注油することが重要です。
綿棒でやさしく拭く
このため、私は綿棒でやさしく歯車部分を拭くようにしています。
変に機能がある綿棒ではなく、普通の白いもので十分です。何もつけずに拭いても良いですし、後述のオイルを少しつけてやると古くなった油が溶けて取れてくれます。
固着しているような汚れがある場合はつまようじで外してやるか、綿棒に後述の油をつけて拭いてやると取れます。
きれいに見えてもこれをやると結構綿棒が黒くなって掃除の満足度が高いです。
また、機械的な動きには関係ありませんが、歯車以外の部分も掃除してやるときれいになります。
割れなどの故障を確認する
掃除の際に一緒に割れなどの故障を確認します。
特にプラスチックでできているローラーを使っているペグは割れやすいので注意してみた方がいいです。
糸巻の注油
掃除が終わったら注油してやります。
エレキギターやアコースティックギターの糸巻は歯車が露出していないものがあり、注油がいらないものがあります。
しかしながら、クラシックギターの糸巻は一般的に歯車が露出しており、注油が必須です。
ロジャースはフィニッシュラインの自転車用ルブリカントを注油用オイルとして推奨
最高級の糸巻といわれているロジャースのHPによると、注油用のオイルとしておすすめなのはフィニッシュラインの自転車用の油(ルブリカント)です。
色々な容量がありますが、ギター用だけであれば一番小さいので十分かと思います。
また、現代ギター社からは専用のグリスが販売されているのでこちらでもいいかと思います。
河野ギター製作所はクレ5-56でもいいとしています。
私は最近、クレ 5-56のペンタイプというのを使っています。その名の通りペンの用に塗って使える5-56であり、ペグに使いやすいです。
ダダリオのルブリキットは細いブラシと粘度の高いグリスで、歯車の奥の方までグリスアップできます。
いずれにせよ重要なのは、絶対にギターの木部にオイルがつかないようにすることです。こういったオイルは木部につくとしみこみ取れなくなります。また、塗装を侵す可能性もあります。
注油すべきは2か所
上述のロジャースのHPによると注油すべきは2か所です。
1か所目は歯車です。ここは露出している部分でもあり歯車がかみ合うところでもあるので注油は必須です。つまようじや綿棒で油を塗り、糸巻を回して全体にいきわたらせます。
2か所目はペグを回す軸がプレートと接して回転を支えているところです。上の写真は下側だけ示していますが、上と下に2か所あるので両方に注油します。ここは露出していないので、注射器のようなものや針を使って注油します。ほんの少しの油をつけて軸を回してやれば十分です。
ただし、この2か所目は軸受けに油を差す余裕があるあるいは油を差すポケットがある場合の話です。きっちりとはまっている場合は油が封入されている可能性があるので、その場合は注油は不要です。
油を塗りすぎないことが重要
重要なのは注油した後に余分な油分をふき取ることです。注油は多く油をのせればいいというものではありません。多すぎる油はむしろ汚れを引き付けて動きを悪くします。
ちょっと拭いたくらいですべてとれるようなものではないので、注油後に綿棒でもう一度拭いてやると良いと思います。
故障を見つけたら部品交換するか糸巻ごと交換する
もし掃除中にローラーの割れなどの故障を見つけたら、部品を交換するか糸巻ごと交換します。
日本製のゴトーの糸巻は細かい部品まで売られているので安く直せます。他のメーカーもクラシックギター専門店に行くと部品が売られていることが多いです。
もしその糸巻を長年使っている場合は他の個所も壊れる可能性があるので糸巻ごと交換するのも手です。
素人判断せずにまずはクラシックギター専門店に持ち込んで修理方法を相談するのがいいかと思います。
頻度は半年~1年に1度で十分、ギターを健康に保つために
糸巻の掃除、注油、メンテナンスはそれほど頻繁にやる必要はなく、半年~1年に1度で十分です。
しかしながら、これだけ頻度が低いと逆に忘れがちです。
ギターを健康に保つためにも半年に一度くらいまとめて掃除をすると良いと思います。こちらの記事を参考にしてください:
ペグの調子が悪くなると調弦がしづらくなり、ギターを弾くモチベーションも下がります。しっかりと良い状態を保ってあげましょう。