日本の伝統的な塗装である漆を楽器に使うと、音質が良くなるという研究結果が発表されました。無響室で音を科学的に分析した結果であり、信頼が置けます。ギターにはカシューという漆に似た塗料が使われることがありますが、同様の効果があるのでしょうか?
ギターに使われる塗装についてはこちらの記事で詳しく解説しています:
クラリネットに漆による塗装を施すと音質が向上
この研究は長岡技術科学大学名誉教授の八井浄氏によっておこなわれ、応用物理学会の学術誌に論文が掲載されました。
クラリネットに漆を使った輪島塗を施したところ、音の出始めから一定の音量に達するまでの時間が短くなり、シャープな音質となったそうです。
特に内側に漆を塗った場合、漆が楽器表面の小さな傷や凹凸を埋め、空気の流れがなめらかになることで効果が高かったとのこと。
高音域ほど音の響きが良くなることもわかりました。
演奏者も効果を実感
この研究は無響室で音を科学的に分析することでおこなわれましたが、演奏者も漆塗りの効果を実感したそうです。
それによると、漆塗りを施した場合、
- 息の入り方がスムーズになった
- 雑音が減った
- 吹き心地が良くなった
という変化を感じたとしています。
今後はほかの楽器でも検証をおこなう予定
今回の研究で使われたのは木管楽器のクラリネットですが、八井氏はほかの楽器でも検証をおこない、応用の可能性を探りたいとしています。
クラリネットの前にもアボリジニの伝統的な木管楽器で音質向上を確認したそうで、木管楽器には広く適用できるのかも知れません。
アントニオ・マリンが1973年に漆塗りのギターを製作
Twitterでいただいた情報として、アントニオ・マリンが1973年に漆塗りのギターを製作したそうです。
もう半世紀も前のことであり、今では巨匠と呼ばれるマリンの若かりしころでしょうか。どんな音なのか気になります。
このギターは少なくとも2本作られ、現在ギター文化館に1本、ギタリストの吉川二郎が1本持っています。
カシューは同等の効果を持つ?
今回の研究の場合、空気の通り道である木管楽器の内側に塗ると流れがスムーズになり、効果が大きかったとのことですが、ギターの場合は空気の通り道はないため、同じ効果は得られないような気がします。
ただ、「木の表面の小さな傷や凹凸を埋める」という効果はあるでしょうから、何かしらの変化は生まれるのではないでしょうか。
それがたとえばセラック塗装とどう違うかなど、興味は尽きません。
また、ギターの場合、河野ギター製作所のギターなどですでにカシューという漆に近い塗装が使われています。カシューと漆でどれくらい楽器への効果が異なるかはわかりませんが、実はすでに良い効果が得られているのかも知れません。
セラックやカシューといったギターに使われるとそうについてはこちらの記事を参照ください:
いずれにせよ、日本の伝統的な塗装が楽器に良い影響を与えるというニュースはうれしいですね。続報を期待したいと思います。