ギターの伝統的な表面板の材料といえば松(スプルース)。トウヒと呼ばれる木が原料なのですが、資源枯渇の恐れがあるようです。将来的には松のギターがなくなってしまうかもしれません。
このサイトのクラシックギターの材料や楽器その物に関する記事は以下の記事でまとめてあります:
温暖化の影響で害虫が増える
松のギターの原料となるトウヒは寒い地域に生える木であり、温暖化の影響を受けやすい植物です。
気温が上がると地表に根を張るトウヒは気温上昇の影響をもろに受けます。また、トウヒを枯らす虫にとって逆に温暖化は恩恵となり、ますますトウヒが枯れていくのだそうです。
一方、トウヒが育つスイスの年平均気温は以下のように上昇し続けています:
日本でもこれまで採れなかった南の方の魚が採れたり、逆にこれまで採れていた魚が採れなくなったりしていますが、木材に関しても同様のことが起きているようです。
平均気温が上がれば植物相が変化し、たとえ切り倒したトウヒの代わりに新しいトウヒを植樹してもうまく育たなくなる恐れもあります。
将来的にはトウヒに変わる木材を探さなくてはならない
この事態にスプルースの木材を日本を含む世界各地に輸出している木材加工業者は、将来的にトウヒに変わる木材を探さなくてはならないだろうとしています。
ギターを含む弦楽器向けの木材は1,000本に1本、10,000本に1本といわれるほど貴重なものであり、たとえ建築用として利用可能なトウヒは確保できても、ギター用のものは手に入らなくなるかもしれません。
すでに資源枯渇が進んでいるハカランダは古い建物を壊した廃材を楽器に利用することがありますが、スプルースについてもピアノなどの壊れた大型楽器をギターに使うこともひつようになるのでしょうか。
ギターの表面板の材料についてはこちらの記事で詳しく解説しています:
裏板や側面板の材料についてはこちらの記事を参照ください:
ギターの価格が二極化する?
有名なギター製作家は大量の木材を確保しており、少なくとも数年先に待つのギターがなくなるということはないでしょう。
ただ、徐々に材料が少なくなるのは確かであり、新しい製作家が松の表面板がほしくても手に入らなく張る可能性があります。
この結果、松のギターの希少価値が上がって高いギターがより高くなり、価格の二極化が進むかもしれません。
代わりの材料や構造が登場するかも
何かがなくなければほかのものを探すのが人間ですので、きっとトウヒがなくなってもほかの材料を使うようになるでしょう。
たとえば資源枯渇が昔からいわれているローズウッド系の木材の代替材としてはケボニーが開発されています:
科学的に作られる材料も候補の1つです。ギターの弦が昔は羊腸だったのがナイロンになり、それが今では当たり前のように受け入れられているように、人間はきっと受け入れられるはずです。
さらに、構造的な工夫もトウヒの枯渇を補うことになるでしょう。ラティスやダブルトップといった新しい構造が登場しており、あまり良い材料がないなかで音の良いギターを生み出す構造が生まれるはずです。
人間の環境対策が実を結んでトウヒがまた広く育つようになるのが一番ですが、ギターがこれからも身近な楽器であり続けるよう、メーカーや製作家の工夫に期待したいです。