クラシックギターの弦のチューニングは基本的に一定であり、変調弦の曲であってもそこから大きく外れることはありません。でも、ギターが出せる音域が変わればもっと可能性が広がるのではないでしょうか。マグマ(Magma)という弦メーカーはクラシックギター用の移調弦を販売しているメーカーであり、チェロのような音を奏でられる移調弦もあります。
アルゼンチンの弦メーカー「マグマ(Magma)」
マグマ(Magma)はブエノスアイレスに拠点を構える弦メーカーです。
元々音楽業界に携わってきた家族が設立した会社であり、ギターなどの弦や楽器、アクセサリを販売しています。
日本でもTMCという会社が扱っており、クラシックギター用の弦もあるのですが、店で見たことがありません。
「TRANSPOSITOR」と呼ばれる移調弦が特徴
このマグマの特徴が「TRANSPOSITOR」と呼ばれる移調弦を製品ラインナップに持っている点です。
移調弦とは、一言で言えばクラシックギターの標準的なチューニングではないチューニングに合わせて作られた弦のことです。
ギターの調弦がなぜ今の形になったのかについては以下の記事を参照ください:
クラシックギターの曲のなかには変調弦と呼ばれる、標準的なチューニングから少し変えた調弦で演奏する曲がありますが、TRANSPOSITORはそんなレベルではありません。
たとえばCELLO LA-Aと呼ばれる弦では、以下の画像上の楽譜のようにチェロの音域でクラシックギターの弦がチューニングされます。
逆にLA-Aという弦では1弦の音が通常よりも高い「ラ」になっています。
こんなことをしたらギターに負担がかかったり、逆に弦の張りが緩くなりすぎたりしそうですが、そこをMagmaのTRANSPOSITORシステムによる新しい弦構造で解決しているのだとか。
実際に低音弦にのみTRANSPOSITOR弦を張った演奏動画がこちらです:
通常のクラシックギターとは全く違う雰囲気になるのがわかるかと思います。
12種類の移調弦がラインナップ
マグマが販売している移調弦は全部で20種類です。
型番 | 調弦 |
BASS SOUND MI-E | 1E 2B 3G 4D 5A 6E |
NEW SOUND SOL-G LOW | 1G 2D 3bB 4F 5C 6G |
NEW SOUND LA-A | 1A 2B 3C 4G 5D 6A |
BARITONE SI-B | 1B 2#F 3D 4A 5E 6B |
NEW SOUND RE-D | 1D 2A 3D 4C 5G 6D |
NEW SOUND SOL-G HIGH | 1G 2D 3bB 4F 5C 6G |
TENOR REQUINTO LA-A | 1A 2E 3C 4G 5D 6A |
CELLO LA-A | 1B 2E 3A 4D 5G 6C |
BASS & GUITAR 7 Strings | 1E 2B 3G 4D 5A 6E 7B |
BASS & GUITAR 8 Strings | 1E 2B 3G 4D 5A 6E 7B 8G |
BASS & GUITAR 10 Strings | 1E 2B 3D 4A 5E 6E 7G 8D 9A 10E |
YEPES TUNNING | 1E 2B 3G 4D 5A 6E 7D 8C 9B 10A |
HALF BASS / HALF GUITAR CARBON | 1E 2A 3D 4G 5B 6E |
DECACORDE | 1A 2B 3C 4D 5E 6A 7D 8G 9B 10E |
GUITAR NEW SOUND | 1E 2A 3D 4G 5B 6E |
ちなみに、「BASS」とついているものは1オクターブ低いです。たとえばBASS SOUND MI-Eは一見普通のチューニングですが、実は1オクターブ下の音が出ます。
注目すべきは多弦ギター用の製品がある点です。イエペスチューニングなどは割と需要がありそうな気もします。
それにしても移調弦というだけでかなりニッチだと思うのですが、20種類もラインナップして採算が取れるのでしょうか…。
日本では移調弦が手に入らず、公式オンラインショップが利用可能?
このTRANSPOSITORシリーズ、残念ながら検索した限りでは日本では手に入らず、Strings by Mailですら一部しか取り扱っていません。
マグマの公式オンラインショップでは一応配送先として日本を選べました(本当に来るかどうかは試していません)。
価格は定価75.75ドル(約8,700円)で、軒並みセール価格25.25ドル(約2,900円)になっていました。アルゼンチンも日本と同じ、弦は定価が高くて割引が大きいシステムなのでしょうか。
普通のクラシックギター用弦もある
マグマは普通のチューニングのクラシックギター弦もラインナップしており、前述のTMCも一部を扱っているようです。
型番 | 特徴 |
GC 110 C | 高音弦がカーボン弦、低音弦が銀メッキの巻弦 |
GC 110 A | 1,2弦がナイロン、3弦がカーボン、低音弦が銀メッキの巻弦 |
GC 110 T | チタニウム弦、低音弦が銀メッキの巻弦 |
GC 110 | 高音弦がナイロン弦、低音弦が銀メッキの巻弦 |
GC 110 D | 低音弦が金色の合金、低音弦が銀メッキの巻弦 |
価格はたとえばGC 110 Cは2,000円ほどです。
GC 120 *というハイテンションバージョンもあります。
移調弦を使えばクラシックギターの可能性が広がる、かも
クラシックギター曲は基本的におなじ調弦を前提に作られており、そのおかげでたくさんの曲を簡単に弾くことができる一方、そのためにギターの可能性を狭めているといえるかもしれません。
移調弦を使えば出せる音や和音の幅が広がり、もっと面白い音楽が演奏可能になる可能性もあるでしょう。
ただ、普通の曲が弾けなくなるので、移調弦を張る用のギターを用意しなくてはいけないのが面倒かつコストがかかるといえるでしょうか。
正直流行するとは思えませんが、ギターが行き詰まったときの突破口にならないかな、とも思います。