ギターを弾いていると、冬だけフレットが飛び出て手に引っかかったり、痛かったりすることはないでしょうか。人間自身も弾きづらかったり痛みを覚えたりするかもしれませんが、実はフレットの飛び出しはギターの方がもっと危険な状態にあることを示しており、ギターからのSOSサインといえます。早めに対処しないとより手間や費用がかかる修理が必要になるので注意しましょう。
ギターのメンテナンスに関する記事はこちらにまとめてあります:
フレットが飛び出るのは空気が乾燥して木が収縮するから
フレットが飛び出る原因は、空気の乾燥により木が収縮するためです。
木材には湿度によって収縮や膨張が起こる特性があり、生木の場合は10%も体積が変わるともいわれています。
湿度と木材の関係についてはこちらの記事で詳しく解説しています:
これに対して湿度による金属の体積変化は小さいです。
この結果、冬になると乾燥して指板に使われる木材が収縮するのに対し、金属のフレットはそれほど変化しないので、フレットが指板から飛び出るということが起こります。
フレットが飛び出しやすい楽器/飛び出しにくい楽器
しかしながら、すべてのギターが冬になるとフレットが飛び出すわけではありません。
何の違いによって飛び出す/飛び出さないが変わるのでしょうか。
よく乾燥された木材が使われたギターはフレットが飛び出しにくい = 高いギターは飛び出しにくい
1つ目の違いは使われている木の乾燥具合です。
湿度変化による木の体積変化は、木が乾燥するほど小さくなります。
しかしながら、木をしっかり乾燥させるには長い年月をかける必要があるため、そのような木をつかっているギターの値段は高いです。
つまり、平たくいえば高いギターはフレットが飛び出しにくい、ということになります。
外国製のギターはフレットが飛び出しやすい
また、高い楽器であっても外国製のギターはフレットが飛び出しやすいといわれます。
ギターは、作られたときには当然フレットが飛び出さないように作られています。
この「作られたとき」の湿度に対して、「使っているとき」の湿度が大きく異なるとフレットが飛び出す可能性があります。
とはいえ、日本はどちらかというと湿度が高い国ですので、この理由でフレットが飛び出す頻度はそれほど高くないかもしれません。
フレットが飛び出たときの修理方法
フレットが飛び出たときの修理方法は2種類あります。
バリ取りをする
1つ目の修理方法は非常に原始的です。
飛び出た部分を以下のようなヤスリで削り落とします。
このとき指板やネックを傷つけないようマスキングテープで保護すると安心です。
マスキングテープはフレットを磨くときなど色々と役に立つので持っておくと便利でしょう。
自分でやるのに自信がなければ専門店で修理してもらうのをおすすめです。
クロサワ楽器ではフレットのバリ取り料金は11,000円からとされており、ファナでは6,000円からで1週間ほどかかるとされています。
自分で道具を買ってやった方が安いし早いのは確かです。
加湿する
ギターが乾燥することによってフレットが飛び出たなら、逆に加湿することによって元に戻る可能性があります。
指板を直接加湿できるものとしては、MUSIC WORKSのフレットガードが良いでしょう。
これはシート上の調湿剤であり、弦と指板の間に挟んで使います。
必ず戻るとはいえませんが、試してみる価値あるでしょう。
フレットが飛び出したらギターを置く/弾く環境の湿度を見直すべき
フレットの飛び出しは修理によって直すことが可能です。
しかしながら、フレットの飛び出しはいわば重い病気になる前の予兆であり、環境を見直さなければ楽器の割れなどより修理に手間と費用がかかる故障が起こる可能性があります。
フレットが飛び出したら見直したい湿度対策を解説しましょう。
加湿器を設置する
まずはギターを置く場所およびギターを弾く場所の湿度を上げるため、加湿器を設置しましょう。
ギターにとって快適な湿度は人間が快適な湿度と一致しており、諸説ありますが40%~60%くらいの相対湿度が理想です。
加湿のしすぎも良くないため、必ず自動で湿度を調節してくれる加湿器を使うか、人手で湿度が上がりすぎないようにしましょう。
加湿器には、
- 加熱式
- 超音波式
- 気化式
- ハイブリッド式(上記の組み合わせ)
がありますが、十分加湿できればどれでも大丈夫です。一般的には加熱式が最も強力といわれていますが、その分消費電力も大きく、電気代が高いです。
このため、加熱式とほかの方式を組み合わせたハイブリッド式の使い勝手が良いといえるかもしれません。
エアコンから出てくる風を直接ギターに当てない
冬の暖房にエアコンを使っている人は多いでしょうが、エアコンから出てくる風は乾燥しており、ギターに当てるべきではありません。
部屋全体は潤っていても、エアコンの風が当たる場所にギターを置くことで故障する可能性があります。
床暖房の上にギターケースを置いたり、ギタースタンドを置くのもNGです。
同様に、加湿器から出てくる蒸気や風は湿度が高いので、これも当てないようにしましょう。
ギターケースの中に湿度計と調湿剤を入れる
ほとんどの人は1日のなかでギターを弾いている時間よりも弾いていない時間の方が長いはずです。
このため、部屋の中だけでなく、ギターを入れているケースの中の湿度も重要であり、湿度計と調湿剤を使った湿度管理が必要といえます。
昔ながらの針の湿度計でも良いのですが、Bluetoothでスマホと通信できるものであれば急な湿度変化にもすぐに対応できるでしょう。
特にこちらの湿度計はギター内部の湿度が測れるのでおすすめです:
フレットの飛び出しには、ネック付近にこちらのような湿度計を入れておくと良いです:
調湿剤にはさまざまな選択肢がありますが、フレットのためであれば上で紹介したフレットガードが良いのではないでしょうか。
ただ、ギターケース全体を適度な湿度に保つには、1つの調湿剤では足りないことがあります。
私はこちらのDr. Dryを合計8個入れています:
もう1つ注意したいのは、調湿剤は無限に加湿や除湿ができるものではないという点です。
蓄えられた湿気がなくなれば加湿できなくなりますし、限界まで湿度を吸ったらそれ以上除湿できません。
このため、使い捨てのものは交換し、再利用できるものは、
- 加湿器の風を当てる
- 太陽の光に当てる
- 電子レンジで加熱
といった手段で復活させなくてはなりません。
指板をレモンオイルなどで保湿
指板は一般的に塗装されておらず、乾燥しやすいです。
このため、指板にレモンオイルなどを塗って保湿してやると良いでしょう。
レモンオイルは指板の掃除もできて一石二鳥です。
さらに、ホホバオイルを使った楽器用の保湿・保護ワックスもあります。
詳細はこちらをご覧ください:
ギターが出しているSOSを見逃すな!
フレットの飛び出しは軽く見られがちですが、その裏にはギター使用環境の乾燥しすぎがあり、より深刻な故障につながる恐れがあります。
バリ取りなどによって対処するのはもちろん、ギターを置いたり弾いたりする環境の見直しもおこないましょう。
ギターにとって快適な環境は結局、人間が快適な環境と同じです。ギターをいたわることは自分をいたわることにもつながるのではないでしょうか。