バイオリンとギターは同じ弦楽器であるのに音色も音の長さも全然違います。この2つの楽器、発音の原理からして全然違う楽器です。違いを知ることでギターの弾き方や選び方にも参考になる点があります。
このサイトのクラシックギターの材料や楽器その物に関する記事は以下の記事でまとめてあります:
比較的単純な発音原理のギター
ギターのように弦を弾いて奏でる楽器は割と単純な発音原理です。
弦を弾くと弦が振動する
爪やピック、指で弦を弾くと弦が振動します。この時の音の高さは弦の長さで決まります。
弦の長さが短いほど高い音になるので、上の方のフレットを押さえるほど高い音が出ます。
また、音の高さは弦の張りの強さ(張力)と太さでも変わるので、1~6弦で音の高さが違ったり、ペグを巻くと音の高さが変わるわけです。
弦の縦方向の振動が表面板へと伝わる
弦の振動はサドルとブリッジを通して表面板へと伝わります。
ここで重要なのは表面板に対して平行な方向(横方向)の振動は表面板にほとんど伝わらないという点です。これはギターのサドルとブリッジが単純に接している構造であるためです。
試しに弦を引っ張って真横方向に弾いてみると音が小さいことがわかるかと思います。
実際に弾くときには真横方向にのみ弾くことはできないので縦方向の振動が発生し、それが表面板に伝わります。
裏板に振動はあまり伝わらず、表面板の振動が音になる
表面板の振動はあまり裏板には伝わりません。ギターの裏板はどちらかというと音を受け止めて反射する目的で存在しています。
表面板の振動はギターの箱の中からホールを通して発音され、耳に届きます。
実は複雑な発音原理のバイオリン
このようにギターはわかりやすく単純な発音原理なのですが、バイオリンはかなり複雑な発音原理を持っています。
自励振動で振動する弦
バイオリンを弓で弾くとき、ギターのように弦を弾いているわけではありません。単純に弓で弦を擦っているだけです。なぜこれで弦が振動するのでしょうか?
実はここでは自励振動といわれる現象が起きています。身近なところだときれいな皿を指でするとキュッキュッという音がするあれです。
弓で弦を擦るという行為は弦を直接振動させているわけではありませんが、それが振動へと変換されているわけです。
ここで注意したいのは共振とは異なるという点です。共振とはマンションが地震で倒壊するというあれです。
この場合は地震の周波数とマンションの共振周波数が一致して起きるわけですが、地震が振動を起こしているという前提があります。バイオリンの場合は弓は振動しているわけではないので共振ではありません。
自励振動は弓を擦り続ける限り継続するので、弦も振動を継続し、長い音が出せます。
駒が弦の横振動を縦振動に変換する
弓で擦ることによって自励振動が起き、弦が振動することはわかりました。しかしながら、この振動は横振動であって縦振動ではなく、このままでは表面板を振動させられません。
そこで出てくるのがギターのサドルやブリッジに相当する駒です。
ギターのサドルやブリッジに比べるとずいぶん複雑な形をしています。まず、駒の上部分が斜めに弧を描いています。ギターのサドルがまっすぐ(ちょっと斜めですが)なのに比べると形状が違います。また、脚が2か所で表面板と接しており、ギターのようにべったりくっついていません。
この形状の駒の上で弦が横振動をすると、駒が2本の脚で交互に表面板を押すような動きをします。相撲の四股というか、そんな感じです。この四股が表面板を縦に押すので振動が発生します。
また、弦が振動することにってよって張力が変化し、駒を弦が下方向に押す力が変化します。これによっても振動が縦方向に伝わります。
こういった原理によりバイオリンは横振動でも表面板を振動させることができるわけです。
魂柱によって裏板も振動する
もう1つバイオリンにあってギターにないものとして「魂柱」という部品があります。これはバイオリンの内部で表面板と裏板の間に立っているものです:
この柱、何のためにあるのかというと、表面板の振動を裏板に伝えるためにあります。つまり、バイオリンはギターと異なり裏板も積極的に振動しています。
ただし、これにはデメリットもあります。実は、表面板と裏板を同時に振動させると、相互に振動を打ち消しあう力が働き、振動が速く終わってしまいます。
バイオリンでもたまに指で弾くピチカート奏法がありますが、ギターに比べて音の長さ(サステイン)が短いかと思います。これは表面板と裏板の振動が互いに打ち消しあっていることも一因だそうです。
これに対して弓で弾いているときには連続的に振動が起こされているので、打ち消しあうよりも振動する方が強く、大きな音が出るのだそうです。
違いから分かるギターの弾き方と選び方
これらの違いからギターを弾くときやギターを選ぶときの参考になります。
大きな音を出すには弦に縦方向の振動を与えることが重要
まず、ギターのサドルやブリッジは単純な構造なので弦の横振動は表面板に伝わらないという点があります。
バイオリンの場合は駒の形状の工夫によってここを克服しているわけですが、ギターにはそんなものはありません。
このために一般的にはアポヤンドはアルアイレよりも大きな音となるわけです。
また、大きくしっかりした音を出すにはどちらの奏法であれ縦方向の振動を意識して弾く必要があります。
やりすぎるとフレットや表面板に弦が当たってバルトークピチカート状態になるのでやりすぎはだめですが、弦を弾くときに縦方向に振動させる意識を持つだけでかなり音は変わるかと思います。
裏板や横板が振動しやすいギターはサステインが短いかも
また、バイオリンの魂柱によって裏板を振動させると、表面板と裏板の振動が打ち消しあうという特徴がありました。
ギターの中にも裏板や横板がよく振動する楽器とそうでもない楽器があります。あまりにも裏板がよく振動する楽器はサステインが短い傾向にあるかもしれません。
スモールマンなどの現代的な楽器は裏板と側面板を振動しないように強固にし、表面板を薄く軽くすることによって大音量と長いサステインを実現していますが、その一因はこの原理にあるかもしれません。
とはいえ、裏板が表面版並みに振動する楽器は見たことがないですし、裏板が振動することによる音質への影響もあるでしょうから、一概に振動しない方がいいとはいえないかとは思います。
時にはバイオリンがうらやましくなることもあるけど
クラシックギターという地味な楽器を弾いていると、華やかなバイオリンがうらやましくなることがあります。
同じ弦楽器とはいえまったく異なる楽器であることを理解し、違いとして受け止めてあげるのがいいかもしれませんね。