ヴァイオリン弾きのみならず、世界中の人の憧れであるストラディバリウス。その音をバイオテクノロジーで再現したという楽器が作られています。秘密は特殊な菌類による処理です。
いまだ音の秘密がわからないストラディバリウス
ストラディバリウスといえば誰もが知っているヴァイオリンの名器ですが、その音の秘密はいまだ解明されていません。
たとえば、塗装に秘密があるという説や、化学的な処理がポイントだという説などがあります。
また、ストラディバリウスが生きたころには1645年から1715年にかけて発生した寒冷期に成長した特別な材料が存在しており、これが重要だともいわれています。
いずれにせよ、色々な説が唱えられていますが結論には至っていないようです。
このため、ストラディバリウスは高値で取引されており、億を超えることもあります。
特殊な菌類でストラディバリウスの音を再現
そんな中、スイス連邦材料科学技術研究所は、ヴァイオリン用の木材を特殊な菌類で処理し、ストラディバリウスの音を再現することに成功しました。
この研究では2種類の菌類(Physisporinus vitreusとXylaria longipes)を使い、ヴァイオリン用の材料を「腐らせ」ることで音質を向上しています。
理想的なヴァイオリン用木材には以下の3つの要素が欠かせません。
- 低密度
- 高音速
- 高弾性率
これらの菌類はまず、木の細胞壁をゆっくり分解し、木材の密度を下げます。通常の菌類でも同じことは可能ですが、密度は下がっても音波が木材を伝わる速度が遅くなるため、いい音にはなりません。
しかしながら、この研究で用いた菌類の場合は分解が進んでも音波が伝わるための硬い構造が残り、木材の弾性係数が損なわれないのだそうです。
もちろん、ヴァイオリンとして使う前にはエチレンオキサイドガスで木材を処理し、菌類を死滅させます。
ブラインドテストで違いを聞き分けられず
この菌類で処理された木材で作られたヴァイオリンを、1711年製の本物のストラディバリウスを使ってブラインドテストをおこなったところ、聞き分けることができなかったといいます。
このテストで使われた木材は、9カ月間菌類で処理されたものです。
この研究を主導したシュヴァルツェ教授は、「バイオテクノロジーによる響板材の処理が成功すれば、将来、若い音楽家に、高価で多くの音楽家にとって手の届かないストラディバリウスの音質を持つバイオリンを演奏する機会を与えることができるかもしれません」と述べました。
ギターにも応用可能?
いい音が出る木材の条件はギターも同じでしょうから、菌類で木材を処理するという研究はギターにも応用ができると考えられます。
ギターの木材については以下のタグを含む記事で詳しく解説しています。
高品質な木材が枯渇する中、このような方法でいい音を出せるようになれば、木材資源の保護にも役立つかもしれません。
今後のさらなる研究にも期待したいです。