クラシックギターの演奏にかかわらずどの楽器、スポーツにおいても脱力の重要さはよく知られています。しかしながら、実際に脱力しようと思ってもどうやればいいのかわからない人が多いのではないでしょうか。最近、右手の力を1,2段わざと弱くして弾くと良いのではないかと思うようになりました。これは、力を入れてギターを弾いても音量がそれに必ずしも追随しないことにもとづきます。
脱力に関してはこちらのカテゴリーの記事も参照ください:
加えた力に対して音が素直に大きくならないクラシックギター
こう思うようになった理由はクラシックギターの特性からです。
理想的なクラシックギターの右手の力と音量の関係は以下のようなものかと思います:
つまり、力を加えれば加えるほど音量が出るというものです。しかしながら、実際にはご存知の通り、
- 力を加えすぎると弦がフレットなどに接して雑音が出るし、それ以上振動できないので音量が上がらない
- 力が弱すぎると音が出ない
ということから、以下のようになると思っている人が多いように思います:
前回の脱力に関する記事ではこの音量の幅を使い切ることが脱力にとって重要と書きました。
ところが、音量と力の関係は実際にはこのように直線的ではありません。
実際には以下のように、音が出始めるところから力を加えると急峻に音量が上がり、だんだんと力を入れても音量が上がらなくなります:
これはギターの弦及びギターの構造的に入れた力に対して素直に大きく振動しないこと由来します。
力の入れ具合を素直に分割してもpp, p, mp, mf, f, ffに対応しない
ギターを弾く人はどうしても自分の感覚的な力の入れ具合で音量を調整しようとします。
しかしながら、上のような力と音量の関係を考えると、楽譜上の音量記号に対して力の入れ具合を素直に分割しても音量が素直に分割されません。
実際に上のグラフに対して力を等分して音量に当てはめるとこうなります:
ppとp, pとmpがやたらと広く、mpからffの間が詰まってしまっています。
最大の力はここぞというときに取っておく、小音量は繊細なコントロールが必要
逆に、音量を等分してそれに必要な右手の力を当てはめるとこうなります:
実は、フォルテの音を出すにはそれほど大きな力が必要ありません。
曲を弾いているとき、ほとんどの場合はメゾピアノからメゾフォルテ、フォルテの間の音量かと思いますが、自分が思っているよりも1,2段かそれ以上弱い力で弾いてちょうどいいくらいです。つまり、自分が思っているよりも力を抜いて弾いていい、ということになります。
逆に、フォルテで力を入れすぎるとフォルテとフォルテッシモの差がつきません。フォルテで力を抑えめにすることでフォルテッシモの演奏効果が高くなり、脱力の効果があるだけでなく音楽性がアップします。
一方、メゾピアノ以下の音量で弾くときには音量の変化に対して右手の力の変化が小さいことがわかります。つまり、小音量で弾くときには右手に繊細な力のコントロールが必要となります。
右手の力を弱くすることで左手の押さえも弱くなる
右手の力を弱くすると結果的に左手の押さえる力も弱くすることができます。
強い力で弦を弾くと弦の振動が大きく力強くなるため、どうしても左手でしっかり弦を押さえなくてはいけません。また、人間は右手に力を入れるとどうしても反射的に左手にも力が入ってしまうものです。
右手の力を1,2段力を弱めることを意識すれば何もしなくても勝手に左手の力が抜けてくれます。
実際にどれくらい右手の力を抜けばいいかは録音で確認
上に示したグラフはあくまで例です。曲線がどれくらいの傾きなのかや、最大の音量については、使っているギターや弾いている人の技量に大きく依存します。
このため、まずは単音で自分が思うpp, p, mp, mf, f, ffの音量を出し、それを録音して聴いてみるのが良いです。
なお、スマホのマイクで録音すると音量が自動調整されてしまって差が正しく聴けないので外部マイクを使うことをお勧めします:
あるいは、家族など他の人に聴いてもらってもいいかもしれません。
また、できれば各指/各弦別でやってみると良いと思います。
客観的に自分の力の量と音量の関係を聴くことで自分がかけるべき力の量がわかり、結果的に脱力につながるかと思います。自分がいかに無駄に力を入れていたかわかればもうけものです。
ただし、「いい音」が出ていることは大前提です。ヒョロヒョロの音になってしまうようであれば見直した方がいいかと思います。
ハイテンションの弦も同じ考え方で弾きこなせる
以下の記事でも書きましたが、この考え方でハイテンションの弦も弾きこなせます。
とにかく力でねじ伏せないと、という気持ちを捨て、弦に寄り添い、その力をいなすようにするのが重要です。
力を入れないと大きな音を出した気にならないのはわかるけど
人間とは不合理なもので、音量が変わらないとわかっていても力を入れないと大きな音を出した気にならないものです。
「いかに力を入れるか」ではなく「いかに音をコントロールするか」に注力することで、脱力にもつながりますし、結果的に音楽性の向上にもつながります。
力を抜くことで音は制御しやすくなりますので、音量だけでなく音質も多彩に変える余地が出てきます。
ぜひとも自分のギターを弾くときの力の入れ具合を見直してみてください。
(追記): 弾いていない時の脱力も重要です