クラシックギターの新技術 ダブルトップやレイズドフィンガーボードなどさまざまな構造を解説

クラシックギターのダブルトップ表面板の構造 楽器

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現在のクラシックギターの基本構造はトーレスが作ったものといわれています。確かにそれを基礎にはしているのですが、少しずつ新しい製作技術が導入されています。そんな新世代の製作技術を紹介していきたいと思います。

ダブルトップ

新しい製作技術の中でもっともメジャーなものはダブルトップかと思います。この製作技術を最初に開発したのはマティアス・ダマンとゲルノット・ワーグナーの二人といわれています。

通常のクラシックギターは薄く削った1枚の木の板からできています。正確には、薄い板を何枚か張り合わせているのですが、縦方向には1枚の板です。このような構造は単板ともいわれ、ベニヤ板(合板)ではないことを表しています。

一方、ダブルトップはその名の通り2枚の板を張り合わせた構造になっています。その意味では単板ではなく合板です。

薄く削った木板の間に強靭な構造体を挟む構造

単に2枚の板を張り合わせたのではなく、間に何らかの構造体を入れるのが一般的です。

ダブルトップのギターの表面板内部
アストリアスのHPより

上の写真ではデュポン社のNOMEX(ノメックス)といわれる素材を間に挟んでいます。この素材は強靭な繊維で湿度にも強い特性を持っています。

クラシックギターに限らず木材は薄く削れば削るほど振動しやすくなります。しかしながら、薄くすればするほど板としては弱くなってしまいます。

ダブルトップでは、薄く削った板の間に強靭な構造を入れることで、強度と振動しやすさを両立しているわけです。

製作が難しい

板を薄く削って間に何かを入れればいいから簡単かというとそういうこともないようです。

まず、2枚のまっすぐな板の間に正確に構造体を入れて張り合わせるのが難しいようです。少しでも浮いてしまえば振動を妨げたり雑音の原因になるので、高い技術が必要です。

また、上の写真でもわかる通り、単純に薄い2枚の板の間に構造体を入れているわけではありません。板の一部のみを削って構造体を入れるのが一般的で、どこにどの大きさで入れるかで音が大きく変わります。

このため、「ダブルトップ」といっても一概に音が同じとは言えません。

また、木材の種類としても上はスプルース(松)、下はシダー(杉)といった構造をとることもできますし、ブレーシングによっても音が変わります。

このようになかなか奥の深い構造のようです。

大音量のギターを製作することが可能

ダブルトップのメリットは何といっても音量です。

薄く削った板が大きく振動し、大音量を発生させることができます

一方、伝統的なギターとは異なる音になることから、ダブルトップの音色が嫌いな人もいます。人によっては「遠達性がない」という人もいますが。。。

いずれにせよ、現代のトッププロのギタリストが多く使っている技術であることは間違いありません。

Enhanced Wood(エンハンスト・ウッド)

ドイツの製作家であるSebastian Stenzel(セバスチャン・シュテンツェル)が開発した表面板の新しい方式です。

Enhanced Wood

これによりダブルトップギターの遠達性がないという欠点を解決したとしています。

詳細は以下の記事を参照ください:

レイズドフィンガーボード

レイズドフィンガーボードは、その名の通り、指板が持ち上がった構造のギターのことです。

レイズドフィンガーボードを持つギターを横から見たところ
河野ギター製作所のHPより

通常のギターは黒色の指板が表面板と接していますが、レイズドフィンガーボードの場合はネックの一部が表面板にまで延びていて、表面板と指板が離れた構造になっています。

私もこの方式のギターを使用しています:

単純に指板が持ち上がっているわけではない

レイズドフィンガーボードのポイントは、単純にネックを延ばして指板を持ち上げているわけではないという点です。

普通のギターは以下のような構造になっています。指板は本体と接しており、ネックは本体と横で接しているか中に入っており、表面板の上にはありません。

レイズドフィンガーに対する通常のクラシックギターの構造

一方、よく間違われるレイズドフィンガーボードの間違ったイメージが以下です:

間違ったレイズドフィンガーボードのイメージ

単純にネックが上に移動し、表面板と接しています。確かに、名前からするとこれでも間違っていないのですが、こうしてしまうと本体とネック、指板の位置が変わり、弾きづらそうです。

正しいレイズドフィンガーボードの構造は以下のようになっています。

実は、通常のクラシックギターから変わっているのは表面板の角度です。表面板が斜めに沈み込む構造になっていることで、ネックの一部が露出し、指板が持ち上がります。

裏板および側面板と指板の関係は実は通常のクラシックギターと変わっていません。これにより通常のクラシックギターを弾くときと位置関係は変わりません。

表面板と弦の角度が大きくなることで音量増大

レイズドフィンガーボード構造のメリットとしてよく言われるのはハイポジションが弾きやすくなるという点です。が、実はこれは副次的な効果といわれています。

最も大きなポイントは表面板と弦の角度が大きくなるという点です。通常はこれらは平行ですが、上の図にもある通り、レイズドフィンガーボードでは角度がつきます。すると、弦の振動が表面板に伝わりやすくなり、音量が大きくなるようです。特に低音に効果が大きいそうです。

また、他の音量を向上させる技術に比べて音色に与える影響が小さいのもメリットといえます。

指板と表面板が接触しない作り方も

さらに、レイズドフィンガーであることを活かし、表面板と指板を浮かせている構造を採用しているものもあります

表面板と指板が接着されるとその部分は振動しないですが、浮かせることでより大きな面積を振動させることができます。

製作が難しい、演奏者がポジションを見誤る

レイズドフィンガーボードも通常のギターに比べて製作が難しいといわれています。通常はギター本体内に格納されたり接するだけのネックを露出させなくてはいけませんし、側板を斜めにしたりと、平行に作るものに比べて難易度が高いのでしょう。

また、演奏者にとって、指板が表面板と接していないことからハイポジションがわかりづらくなるというデメリットもあります。特に、12フレットが遠近差でわかりづらいです。

このため、大きく指板を持ち上げているのはレイズドフィンガーを最初にやったといわれるトーマス・ハンフリーと日本の桜井くらいで、あとはハーフレイズドフィンガーといわれる割と持ち上げが小さい構造を採用しています。

持ち上げが小さい構造は近年はわりと使われているようです。

ラティスブレーシング

ラティスブレーシングはワッフルブレーシングともいわれます。

ブレーシングとは表面板の裏に張り付ける板(力木)の配置のことです。通常のクラシックギターは以下のようなブレーシングとなっています:

This is Classical Guitarより

この構造はファンブレーシングといわれています。このファンブレーシングの中にも左右非対称だったり、本数だったりと製作家ごとにいろいろな工夫があります。

一方ラティスブレーシングでは以下のような力木配置となっています:

This is Classical Guitarより

これが園芸用の仕切りやお菓子のワッフルに見えることからその名がついています。

オーストラリアのグレッグ・スモールマンが最初に開発したといわれています。

ちなみに、ブレーシングにはほかにもいろいろな種類があります。

表面板を薄くして振動しやすくすることが可能

このラティスブレーシングのメリットは表面板を強固にできるという点です。

ブレーシングには表面板を補強するという意味もあるのですが、ラティスブレーシングはこの点に特化しています。これにより、同じ強度であれば表面板を薄くすることができます。表面板が薄くなれば振動しやすくなり、大きな音が出るわけです。

このため、ブレーシングの素材としては木材だけでなくカーボンファイバーが使われたりします。

ラティスブレーシング=スモールマンの構造ではない

注意したいのはラティスブレーシングがスモールマンの構造を必ずしも表しているというわけではない点です。スモールマンの構造の特徴は以下の写真にある通り、表面板の振動させたい以外のところを振動させないようにしている点にあります:

This is Classical Guitarより

この写真の中でラティスブレーシングになっている部分が表面板です。あとは薄い表面板を支えたり、余計なところが振動しないようにするための構造になっています。側板および裏板も2重構造にして振動しないようにしています。Aフレームと呼ばれているようです。

これにより、弦の振動エネルギーをすべて音に向けさせようとしています

「ラティスブレーシング」といっても、ここまでやっているか、単純に力木をラティス型にしているだけかはわかりません。見ての通り、スモールマン構造は非常に重量が重くなるので、重くないラティスブレーシングのギターはスモールマンの構造ではないといえそうです。

ただし、スモールマンの構造のギターは、上記のような特徴から、独特の音色となります。中にはスモールマンの音色は受け入れられないという人もいるようです。

サウンドポート

サウンドポートはサウンドホールともいわれ、表面板に開いた1つの穴以外に側板等に穴が開いた構造を指します。

たとえば以下のようなものです:

This is Classical Guitarより

穴の位置や形、数はいろいろで、かつ蓋をつけたりったりできるものもあるようです。

自分の出した音を聴ける

通常のクラシックギターでは音は表面板の穴から出ます。音は指向性を持っているのでこの穴から前方に主に出るため、演奏者は自分が出した音を観客と同じように聴くことはできません。

しかしながら、演奏者に向けたサウンドポートを設けることで、観客が聴いているのに近い音を得ることができます。

ギターの音は一般的には観客が聴いた際にベストになるように作られていますので、サウンドポートにより自分が弾いていても楽しいギターとすることが可能です。

高音の抜けがよくなるという話も、音量は?

サウンドポートを設けることで、高音がこもらずに抜けがよくなるという話もあります。すべての音域が1つの穴から出ることがベストではないでしょうから、これはあるかもしれません。

一方、スモールマンの理論からすると、余計なところに穴が開いていると音量への影響が気になります。極端に小さくなったという話は聞かないですし、サウンドポートを設けている製作家も多いので、それほど気にする必要はないかもしれません。

アコースティックチューブ

ラファウ・トゥルコウィアック(Rafal Turkowiak)というポーランドの製作家が採用している、ネックに穴を開けることで音を改善しようとする試みがアコースティックチューブです。

ギターのアコースティックチューブ

これにより音の伸びが20%改善されるのだとか。

おそらく単にネックに穴を開けただけでなく、表面板にも穴が開いていて音が通るようになっているのでしょうね。

ちなみに特許を取得しているそうです。

アーチバック(削り出し方式)

クラシックギターの通常の裏板はまっすぐなものを使います。これは木材を薄く切ることで作られますが、削り出し方式のアーチバックではぶ厚い木材を削り出して曲面にします。ヴァイオリンと同じ製作方式です。

メリットとしては、パラボラアンテナのように、裏板から反射した音がサウンドホールに集中することで音量が増すといわれています。

デメリットは、曲面にすると面積が増えるので、ギターが重くなります。

(追記): 読者の方から、アコギでは単に板を軽く曲げてアーチ型にしているものが一般的で、それをアーチバックと呼んでいるというご意見をいただきました。このため、アーチバック(削り出し方式)に変えました。単に「アーチバック」と書いて売っている場合はご注意ください。

トランスアコースティックギター

通常のクラシックギターは弦の振動をそのまま表面板に伝えて音を出します。

これに対し、ヤマハのトランスアコースティックギターといわれる製品は、弦の振動を一度ピックアップで拾い、それを電気信号にしてアクチュエーターに伝えて表面板を振動させることで音を出します

以前、以下の記事でも紹介しました:

電気信号に変えてアクチュエーターで表面板を振動させるので、音量を自由に調整することが可能です。通常のクラシックギターでは出せないような大きな音も自由自在です。また、エコーなどのエフェクトもかけることが可能となります。

追記: 音量調整できるのはラインアウトだけだそうです。。。

通常のエレアコやエレキのようにスピーカーから音を出すのではなく、あくまで表面板が振動した音なので、音色が通常のクラシックギターに近いというのもメリットです。

まだこの製品は出たばかりですが、将来的には歴史的な名器(トーレス、フレタ、ハウザーとか)の振動を再現して、音色や音量も近いものを出せたりしないですかね

膨大な選択肢から選ぶ一助になれば

スマホやパソコンと大きく異なるのは、最新の技術が必ずしも最良ではないという点です。

人によって好みは異なり、19世紀ギターが好きな人もいればダブルトップの音が好きな人もいます。

とはいえ、膨大な選択肢があるギターの中からどれを買うか考えると時に、こういった知識があると選びやすくなるかと思います。

まだまだ新しい技術が出てきて、クラシックギターが発展していくことを願います。

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