クラシックギターの色は?といわれるとギターの顔でもある表面板の色を答えることが多いかと思います。いわゆるクラシックギターの色というと赤、白、黄色といったところですが、それぞれ何が違うのでしょうか。
このサイトのクラシックギターの材料や楽器その物に関する記事は以下の記事でまとめてあります:
色の違いは表面板の木材の違い
いわゆるクラシックギターの見た目は大きく分けて、このような白や黄色といったものと:
このような赤から茶色といった色のギターがあるかと思います:
これらの色の違いは表面板の材料の違いからきています。ざっくりまとめると以下のようになっています:
松(スプルース) | 杉(シダー) | |
色 | 白、黄色 | 赤、茶色 |
音質 | 透明感のあるクリアな音 | 柔らかい暖かみのある音 |
弾きこみ | 良い音が出るまでに長くかかる | 最初から音がよく出る |
価格帯 | 中級以上 | 安いギターから高いギターまで |
表面板は弦の振動によって振動し音を作るもの
そもそもギターの表面板は何のためにあるかというと、演奏者が弾いた弦の振動によって振動し、音を作り出すためにあります。
このため、軽くて振動しやすい素材が選ばれます。
そして先人たちで様々な材料を試した結果現代に残っているのが上記の松と杉といわれる材料です。
振動を受け止めて反射する目的の裏板や側面板とはまったく用途が違い、したがって異なる材料が使われます。
それぞれの材料の特徴について以下に詳しく書いていきます。
遠くまで飛んでいくような音がする松(スプルース)
まずは白または黄色のギターです。
この色のクラシックギターには「松」といわれる材料が使われています。
クラシックギターに使われる「松」は種類としてはマツ科トウヒ属に属する木材で、英語ではスプルース(spruce)と呼ばれます。
かなり昔から使われている材料で、伝統的な材料といえます。
日本人の思う「松」ではない
「松」といっても、
という見た目の日本的な松ではありません。これはマツ科マツ属の木です。
見た目としては、
という感じの、なじみ深いものでいうとクリスマスツリーに使うモミの木と似た形をしています。が、モミの木はマツ科モミ属なのでこれも別種です。
葉っぱは、
のようにとがっていて日本の松に似ています。
なぜ「トウヒ」と呼ばれずに「松」と呼ばれるのかはよくわかりませんでした。。。マツ科ではあるので間違ってはいないのですけどね。
寒い地域に生息
トウヒ(スプルース)は寒い地域に分布し、北半球の温帯から亜寒帯にかけて30種以上が存在するそうです。
日本でも北海道や、本州でも山には生えているそうです。エゾ松といわれるのがそれです。昔はクラシックギターに使われることもありましたが、最近はあまり聞きません。昔はヤマハがグランドコンサートの一部のモデルで使っていましたが、現在のラインナップにはないようです。
条件が良いとどんどん成長し、95メートルに達するものもあるとか。
主に建築材として利用
トウヒは大きくなることからいろいろな用途として使え、特に建築材として使われることが多いそうです。
最近はやりの2×4(ツーバイフォー)の構造材にも利用され、1964年の東京オリンピックの際は国内のヒノキが不足し、大量に輸入されたそうです。このため、材木業界ではトウヒのことを「ヒノキ」と呼んだりするそうです。ややこしいというかなんというか。。。
木目がそろい強度高く、軽くて響きやすい
スプルースは木目がそろっており強度が高く、軽くて響きやすいという特徴を持っています。
このため、楽器用としてよく使われ、ギターだけでなくピアノやヴァイオリンでも使われます。
端正でクリアな音がする
そんな松ですが、クラシックギターの材料として使うとどちらかというと端正でクリアな音がします。
音であらわすと、「ツーン」とか「カーン」といった感じの、音が広がるのではなくまっすぐ飛んでいくような音です。
また、経年変化が大きく、何年も弾いていると次第に音が変化していくそうです。
どちらかというと冷たい音がするので、柔らかくて暖かみのある音が好きな人は杉の方がいいかもしれません。
暖かみがあり柔らかい音がする杉
一方、杉は比較的最近使われるようになった材料です。有名なホセ・ラミレスが最初に使ったといわれています。
クラシックギターに使われる「杉」は種類としてはヒノキ科ネズコ属に属する木材で、英語ではシダーとかセダー(cedar)と呼ばれます。
こちらも日本人の思う「杉」ではないし、シダーでもない
松と同じくこちらもいわゆる「杉」ではありません。
ギターに使われる「杉」はアメリカン(ウェスタン)・レッド・シダーのことです。これはヒノキ科ネズコ属の木でありスギではありません。また、「シダー」はそもそもマツ科ヒマラヤスギ属のことなのですが、アメリカン・レッド・シダーはこれとは関係ありません。
この木は米杉とかカナダ杉と呼ばれます。
また、もう1つ「杉」といわれる材料がレッドウッドです。
こちらはスギ(またはヒノキ)科セコイア属の木で、アメリカのカリフォルニアの方に生息します。米杉に比べると希少価値が高く、高級ギターにしか使われているのを見たことがありません。
ラミレスIII世が初めて使用
米杉はラミレスIII世が初めてクラシックギターに使ったといわれています。
その後、すぐに市民権を得て、セゴビアやイエペスをはじめ多くのプロギタリストに使われています。
安いギターにもよく使われる
松はいろいろな用途に使われるうえに良質なものが少ないせいか、楽器用として売られている松は値段が高いようです。
このため、ビギナー用のギターには杉が使われる傾向にあります。たとえば小平ギターでもアランフェスギターでも下から3番目のモデルでようやく松が登場し、それ以下はすべて杉です。
といっても、最高級のギターは松ばかりかというとそんなことはなく、どちらも使われています。したがって、杉は松に劣るかというとそんなことはありません。最近でもグレッグ・スモールマンなどの製作家が杉を使っています。
暖かく柔らかい音がする
杉の表面板が使われているギターはどちらかというと音が広がっていくような感じを受けます。
音でいうと「ポーン」とか「フワーン」といった印象です。
長年弾いた際の音の変化は松に比べると小さいといわれています。
暖かく柔らかい音が好みの人には向いていますが、かっちりした音が好みの人には松の方がいいかもしれません。
色には例外も
以上が基本的な見分け方ですが、中には例外もあります。
松のギターは日焼けする
松の表面板のギターは時間の経過とともに色が赤茶色になります。
この結果、製作されてから長年を経た松のギターは杉のギターとぱっと見違いが判らなくなります。
原因は紫外線とか酸化といわれていますが、個人的にはケースに入れっぱなしのギターが焼けないことから紫外線が原因ではないかと思います。
どれくらいの時間で焼けるかは使い方によって変わり、私の場合は10年以上松のギターを使っていましたが、普段はハードケースに入れていたせいか、ほとんど焼けていませんでした。透明なケースに入れていたり、スタンドに立てておいたりすると比較的早く焼けるようです。
塗装の色
クラシックギターは最後に木材の表面を塗装します。
この時、塗料に色がついていると見た目がその色になります。
たとえばバイオリンも表面板はスプルース(松)であり、塗装を塗る前は白い見た目となっています。
これに赤茶色の塗装をするからあの色になるわけです。
クラシックギターの場合ここまで極端な色を付けることは少ないですが、スプルースでも白に近かったり黄色に近かったりといった違いは普通にあります。
合板のギターも
また、そもそも表面板が単板といわれる1つの木材から作られたものではなく、合板といわれる複数の材料を張り合わせたものである可能性があります。
この場合はギターの色は表面に露出した材料の色でしかありません。
合板というとものすごく安いギターに使われる印象がありますが、最近はダブルトップという最先端技術で作られる高級ギターもあり、一概に合板=安いとは言えなくなってきています(ダブルトップのギターのことを合板ということはまずないですが。。。)。
写真のホワイトバランス
特にインターネット上の写真でよく起きるのですが、デジカメの写真は必ずしも人間が見た色を正確に再現してくれるわけではありません。
特に厄介なのがホワイトバランスといわれるものの調整です。同じものを撮影しても、ホワイトバランスの違いによって上のように大きく色が変わります。
オートで撮影するとたいていの場合適切なものにしてくれますが、間違えることもありますし、微妙に違っている場合もあります。
また、デジカメ自体もメーカーや個体によって絵作りが異なり、色味は変わります。
色で判断せず、音や好みの見た目かで判断したい
このように、色である程度の見込みはできるものの、例外も多くあり、色だけでギターの良しあしや好みを判断するのは難しいといえます。
やはり弾いたり実際に見たりして自分の好みかどうかを確かめるのが一番です。
裏板と側面板についてはこちらを参照ください: