ギターのネックは縁の下の力持ちといったイメージがあります。表面板や裏板のように直接音にかかわるわけではない。でも音には影響があるし、何よりネックがないと楽器として成り立たない。そして、ギター本体の中で最も体で触れるパーツです。そんなネックの材料には表面板や裏板とは違った特徴が求められます。
このサイトのクラシックギターの材料や楽器その物に関する記事は以下の記事でまとめてあります:
加工性と曲がらないことが求められる
ネックの材料として求められる第一の要素は加工性だといわれています。
ネックは長い上にこちらの記事で紹介したようにボディとの合体のために細かい加工が求められます:
このような加工を行うのにあまりにも硬い木や脆い木では困ります。
また、常に弦の張力がかかっているためその張力に負けない強さが求められます。弦の張力は合計で40㎏前後でありそのような力に加えて、楽器を弾くときの力を加えても曲がらないような材質が求められます。
以前の記事で紹介したような、振動しやすい表面版材や音を反射する裏板とは違った特性です。
クラシックギターの場合はシダー(セダー、セドロ)とマホガニー、たまにメイプル
そんなクラシックギターのネックとして使われる木材は主に2種類です。
シダー、もしくはセダー、もしくはセドロ
1つ目はシダーといわれる木です。
表面板のシダーとは別
ん?シダーって表面板にも出てきたようなという人は鋭いです。またこれもややこしい「シダー」の一種で、表面板のシダーとは異なります。
ネックに使われるのはセンダン科のシダーで、セドロともいわれます。
英語ではスパニッシュシダー(==スペインの杉)といわれます。といってもスペインに生えているわけではなく南米に生えています。南米を支配したスペイン人が売っていたのでこの名前がついたのでしょう。
杉のようないい香りがするのでシダー
そもそもなぜシダーといわれるかというと、木自体が杉のようないい香りがするからだそうです。
この香りが葉巻につくといいそうで、葉巻を入れる箱として重宝され、シガーボックスシダーともいわれます。
ギターになってもシダーをネックに使っていると香りで分かるといわれますが。。。私はわかりません。
加工性がよく、乾燥が早く、耐久性が高い
シダーはネックとして求められる要件を満たしており、加工性がよく、乾燥も早く安定し、耐久性が高いといった特徴があります。
マツタケ栽培に使える
豆知識としてはシダーはマツタケの栽培に使えることが2013年にわかったそうです。
すでにシダーは高価な木ですが、日本ではさらに高くなるかもしれませんね。
マホガニー
もう1つのよく使われる木材がマホガニーです。
マホガニーもシダー(セドロ)と同じくセンダン科の木です。
シダーと違い、南米だけでなく東南アジアでも植樹されて出荷があります。
昔から高級家具の材料として珍重
マホガニーの家具というと重厚で高級な家具を思い浮かべるかと思います。
昔からこのような用途によく使われ、リボン杢といわれる木目が美しい木です。
特徴はシダーと同じだが、比重が高い
同じセンダン科の木だけあって特徴はシダーと同じ。
違いがあるのが比重で、マホガニーの方が重く、シダーの方が軽いようです。
マフィアやギャングの資金源になって規制される
このマホガニー、需要がなまじ高いだけにマフィアやギャングが違法に伐採して資金源になっていたそうです。
このためワシントン条約で規制が行われ、今では出所を証明する書類がないと取引ができないとか。
クラシックギターでは使われないけどエレキやヴァイオリンで使われるメイプル
なぜかクラシックギターではあまり使われないのがメイプルです。見た目の問題でしょうか?
他の楽器ではよく使われ、特にヴァイオリンではこれ一択です。
ギターとヴァイオリン、同じネックを持つ楽器なのに材料が違っているのは面白いです。
ネックの材料の違いで音は違うのか?
これはよくわかりません。
そもそもネックが音に影響する比率は低いでしょうし、まったく同じギターでネックだけ違うというのが原理的に作り出すのが難しいでしょうから。
ただ、比重が違う以上は何らかの違うはあるのでしょうが。。。気にする必要はない気がします。
ネックの「反り」について
ギターのネックというと材料よりはどちらかというと「そり」の方が気になるかと思います。
そもそもどっちが順反りでどっちが逆反り
まず、時々わからなくなるのがどっち方向に反るのが順反りでどっち方向が逆反りかという点です。
これは、ギターが前にお辞儀するのが順反り、逆が逆反りです:
湿気が多いと順反りし、乾燥すると逆反りする
ギターのネックは湿気が多いと順反りし、乾燥すると逆反りするといわれています。
そもそも反りが起こる原因は指板に使われる黒檀(もしくはローズウッド)とネックに使われるマホガニーやセドロの湿度に対する収縮の違いといわれています。
これらの木材の湿度に対する動きが違うために反りが起こるわけです。
じゃあ全部黒檀で作ればいいじゃないかと思うかもしれませんが、黒檀は硬く加工性が悪いですし高価なので現実的ではないのでしょうね。。。
いずれにせよ、ネックの状態を保つためにもしっかりした湿度管理が必要です。
反りの確認方法
ネックの反りを確認するのによく見るのはギターのネックをヘッドやお尻から見る方法です。専門家っぽくてかっこいいのですが、素人がネックを上や下から見てもわかりません。
別の方法で見た方がわかりやすいです。具体的には最終フレット(19フレットとか20フレットとか)をおさえた状態でギターを横から見ます。弦とフレットの隙間が狭くなってから広がったり、広がってから狭くなっていれば反っています。
ちなみにひどい場合は単なる反りではなく波打っていたりねじれていたりします。
なぜ順反りの方がいいのか?
順反りと逆反りでは順反りのほうがよく、むしろまっすぐよりも少し順反りしていた方がいいともいわれます。
これは弦の振動と押さえやすさのためです。
弦は振動するとき以下の図のようにサドルと抑えたフレットの中間を中心に振動します:
この図では開放弦をイメージしていますが、大体12フレットあたりに中心が来ます。上のフレットをおさえるにしたがって中心も上へ移動しますが、サドルを超えることはありません。
ここでギターのネックが逆反りしているとすると、ネックが中心あたりが飛び出していて、両端が引っ込んでいる状態になります。そうすると、弦の振動の最も大きい場所とネックが出っ張っている場所が重なり、ネック(フレット)にあたって出るノイズが出やすくなります。
逆に順反りだとネックが引っ込んでいる部分と弦の振れ幅が大きい部分が同じであり、むしろノイズが出にくくなるわけです。
また、同様の原理で、逆反り状態で振れ幅に合わせて弦高を上げるとローポジションやハイポジションの弦高が不必要に高くなり押さえづらくなります。
このため、順反りの方が逆反りよりも良く、多少の順反りはまっすぐよりも良いといわれるわけです。
弾きやすさを決めるネックの太さや形、厚み
ネックで重要なのは材料よりもむしろ太さや形、厚みです。
ギターといってもネックの寸法が厳密に規定されているわけではなく、その太さや形、厚みは人それぞれです。
そして、どのような形状がいいかは奏者それぞれであり、こればっかりは弾いてみないとわかりません。
薄いネックの方が弾きやすそうに思えますが、逆に押さえづらくなるケースもあり、試奏で確かめるのが良いです。
材料についてはそれほど気にしなくてもいいが湿度管理には注意
ギターのネックとして使われている木材は音に大きく影響を与えるものではなく、材料を気にする必要はありません。
しかしながら、常に40kgほどの力がかかり続けているパーツであり、反りの原因となる湿度についてはしっかりと管理してあげる必要があります。
また、ネックはギターの弾きやすさを左右する大きな要素です。これは材料とかスペックよりも、実際に弾いて確かめてみるよりほかない要素になります。
逆に、弾いてみてしっくりするネックを持つギターはその人に合ったギターといえ、愛着を持って長年弾けるかもしれません。