世の中に人々からは一緒くたにされがちなアコースティックギターとクラシックギターですが、いろいろと違いがあります。このサイトはクラシックギターのブログなので、クラシックギタリスト視点で違いについて書いてみたいと思います。
実は「クラシック」ギターよりもアコースティックギターの方が歴史が古い
クラシックギターの「クラシック」という響きからなんとなくクラシックギターの方が歴史が古く、アコースティックギターはクラシックギターから派生してできたと思っていないでしょうか?私もそう思っていました。
実は、アコースティックギター(アコギ)の方が今の形になったのは先なんです。アコースティックギターはクラシックギターの子供かと思いきや、実は兄弟で、なんとアコギの方が兄だった、という驚きの事実です。
C. F. マーティンによって1834年に開発されたアコースティックギター
アコギはC. F. マーティンによってアメリカで1834年にその原型が開発されました。現在でもギターメーカーとして有名なあのマーティンの創始者です。
それが19世紀ギターとして有名なシュタウファーのギターをもとにしたこちらのギターです:
このギターがアコギの始まりといわており、アコギの始まりは?といわれると1834年ということになっています。
ちなみに、アコギといえば鉄弦ですが、この当時のマーティンのギターは鉄弦ではありません。マーティンの鉄弦のギターが登場するのは1922年です。本当にこれがアコギなのか?といわれると。。。マーティンもそう言っているし。。。
1856年のレオナから始まったクラシックギターの歴史
一方、クラシックギターの歴史は?というと、以下の記事でも紹介したトーレスが始祖といわれています:
1856年に作ったFE04 レオナといわれるギターがその後もトーレスがギターを作る基本にしたものといわれており、これが現代のクラシックギターの始祖といえます。
したがって、アコギが1834年なのに対してレオナが1856年であることからアコギの方が歴史が少し長いといえます。
最初は鉄弦ではないですし、始祖についてはいろいろと異論があるかもしれませんが、少なくとも現代のアコースティックギターは現代のクラシックギターから派生した子供ではなく、どちらも19世紀ギターから派生したアコギとクラギは兄弟であるということは間違いありません。
アコースティックギターとフォークギターの違いは?
鉄弦のギターというとフォークギターもありますが、何か違いがあるのでしょうか?
諸説あるのですが、広義でいうとアコースティックギターは電気を使用しないで音を出すギターすべてを指します。つまり、クラシックギターもフォークギターもアコースティックギターの仲間です。
一方、フォークギターは鉄弦を使ったギターを指します。このため、クラシックギターと対になる呼び名は厳密にいえばフォークギターです。
ただし、一般にはアコースティックギターといえばフォークギターのことを指しますので、フォークギターのことをアコースティックギターといっても間違いではありません。
なお、ギターに興味がない人にとってはどうでもいい違いのようです。。。
アコースティックギターのクラシックギターと比較した特徴
それでは、アコースティックギターをクラシックギターと比較するとどんな特徴があるのでしょうか?
Xブレーシング (力木)
マーティンが開発したといわれているXブレーシングはアコースティックの代名詞ともいえる技術です。
ブレーシングとは一般に表面板の裏につけた補強用の木のことを言います。
クラシックギターの代表的なブレーシングはファンブレーシングと呼ばれる扇型のものです。これはアコギの原型の19世紀ギターも同じです。こんな感じです:
これに対してマーティンは1850年代(1842年という説もあり)にXブレーシングと呼ばあれるX型のブレーシングを開発しました:
このXブレーシングは従来のファンブレーシングに比べて繊細な音は望めないものの、非常に強度が高いのが特徴です。このXブレーシングを利用して張力がはるかに高い鉄弦を利用したギターが製作可能になりました。
当時は音楽界がロマン派のわかりやすい迫力のある音楽が求められており、今のクラシックギターと同じようにギターに音量が求められていました。マーティンが開発したXブレーシングによってそれが達成できるようになったわけです。
弦が鉄弦
クラシックギターの弦はナイロンあるいはフロロカーボンでできているのが一般的です。低音弦も巻線は金属ですが芯線はやはりナイロン等になっています。
一方、アコースティックギターの弦は一般的には鉄、あるいは金属でできています。金属の方が比重が高いため張力が高く大きな音が出ます。
テンションがどれくらい違うかというと、クラシックギターの弦が40㎏ほどなのに対し、アコースティックギターは80㎏を超えます。弦によっても違いますが倍とかのイメージです。
このため、昔ながらのクラシックギターのブレーシングでは楽器が壊れてしまい、マーティンが開発したより頑丈なXブレーシングが必要なわけです。
この張力のためにクラシックギターよりもはるかに大きな音を出すことができ、活躍の幅が広がっています。
鉄弦でテンションの高いアコギを爪で弾くのはつらいので一般にはピックを使います。
このため、現代のクラシックギターであってもアコギ用の弦を使うのはご法度です。
ボディのサイズが様々
アコギの方がクラギよりもボディのサイズにバリエーションがいろいろあります。
上の写真はすべてマーティンのアコースティックギターです。ボディのサイズや形状によって出る音が変わるので、用途によって使い分けるようです。
このため、クラシックギターだとケースはせいぜいショートスケールかどうかくらいしか違いがありませんが、アコギのケースはボディのサイズや形状によって細かく分かれています。
糸巻(ペグ)の向きが縦
アコースティックギターの糸巻(ペグ)はこんな風に弦をつける部分が上を向いていて、つまみが横を向いているのが一般的です:
これに対してクラシックギターは以下の記事でも紹介したとおり、弦をつける部分が横、つまみが縦になっています:
これはおそらくアコースティックギターを開発したマーティンがもともと19世紀ギターで有名なシュタウファーの工房で修行しており、シュタウファーの使っていた糸巻がそのような向きだったためにこのような違いが生まれたと思われます。
なぜトーレスが横向きだったかはよくわかりません。。。
新しい技術を柔軟に取り入れる
クラシックギターは伝統と格式を重んじており、新しい技術をそう簡単には取り入れません。
特に形状や音質がかわるものは敏感で、トーレスのギターと今のギターを比べると見た目がほとんど変わっていないのはそのためです。
一方、アコギはアメリカ生まれなためかそういった束縛がなく、新しい技術をどんどん取り入れています。実際には上で説明した通りあまり歴史の長さは変わらないんですけどね。
たとえば、エレキギターの登場はその端的な1つだと思います。
また、クラシックギターでは異端児扱いされるカッタウェイは普通に使われますし、裏板をドーム型にするアーチバックも違和感なく取り入れられています。
また、ネックの反りを修正するためのトラスロッドが入っているのも普通です。
こういった向上心が今のクラシックギターに対するアコースティックギター及びエレキギターの発展につながっているのでしょう。
もっとアコギを見習って多様性を持つべきでは
クラシックギター弾きや製作家はなんとなくかたくななイメージがあり、あまり変化を望みません。
一方、アコースティックギター及びエレキギターは持ち前のフロンティアスピリッツでどんどんと新しい技術を開拓していきそれによって今の隆盛となっていると思います。
クラシックギターは長い歴史があるんです!という声も上がりそうですが、実はそんなことはなく、せいぜい兄弟のどっちが上か程度の議論です。
もちろん、クラシックギターの音が今と全然違うものになってしまったり意味がないですが、もう少し積極的に技術や変化を取り入れた方がいいような気はします。
アコースティックギターに学べるところは色々ありそうです。