クラシックギターの違いを生む大きな要因は材料ですが、実は作り方にも大きく分けて2つの方式があります。1つがスペイン式、もう1つがドイツ式といわれる方法です。
このサイトのクラシックギターの材料や楽器その物に関する記事は以下の記事でまとめてあります:
「胴体」と「首」に分かれるギターの構造
ギターという楽器の形を思い浮かべると、大きく分けて2つの部位から成り立っているかと思います。
1つは「胴体」にあたる部分です。ボディともいわれています。この部分は最も重要な表面板を備え、それとともに共鳴胴を構成する裏板と側面板から成り立っています。
もう1つは「首」にあたる部分です。ネックともいわれています。この部分は弦を張るために長く作られており、音程をとるためのフレットが打ち付けられています。
この2つの部分は1つの木で作るわけにはいかないので別々に作られることになりますが、実はこの2つのパーツの合体の仕方でクラシックギターの構造は大きく2つに分かれています。
ネックとボディがツートップ 別々に作ってくっつけるドイツ式(Dovetail Joint)
1つ目の方式は日本ではドイツ式とかドイツ方式といわれるものです。
ドイツ式ではボディとネックを別々に作ります。上の写真のように、ボディ側に三角形の凹形状を作っておき、ネック側をそれに対応する凸形状を作っておきます。そして、それらを接合することで一体化します。
ドイツ方式は比較的単純な方式で接合されているため、修理等の目的でネックを交換するのも比較的容易に行うことができます。
ちなみに、調べた限りでは英語ではドイツ式とはいわれないようで、単にDovetail Jointと呼ばれているようです。”Dovetail”とは鳩の尻尾のことで、接合部分が鳩の尻尾の形なのでこういわれているとか。
合理的で大量生産にも適したドイツ式
このドイツ式は合理的で大量生産にも適しているといわれています。
ネックとボディを完全に別で作成できるため、ネックとボディの別の職人を用意できたり、あるいは機械によって比較的容易に大量生産ができます。
もちろん、上記の写真のようにネジを使わずしっかりと接合するにはすり合わせの高い技術が必要ですが、アコギなどでは以下の写真のようにネジを使って固定する方式をとっていたりします。これならそれほど高い精度が必要なくボディとネックを固定できます。
さらに、後述のスペイン式に比べるとネックに必要な木材が少なくて済みコストが抑えられます。
主役はネック ネックにすべてのパーツが合体するスペイン式(Spanish Heel)
これに対してスペイン方式では組み立ての主役がネックになります。以下の写真がスペイン式のネックのボディとの接合部分です:
ドイツ式に比べると複雑な形になっているのがわかるかと思いますが、この複雑な部分がボディとの接合用部分であり、ネックと一体になっています。。これをどうするのかというと。。。
まず、接合部分の溝に横板(側面板)を差し込みます。反対側も同様にします。
さらに表面板と裏板をくっつけて完成です。
この方式ではネックとボディが一体となることから、ネックとボディがしっかりと固定され、ボディの振動がネックを含めた楽器全体にいきわたるといわれています。
その他の楽器は?
クラシックギターはドイツ式とスペイン式がありますが、他のネックを持つ楽器はどうなのでしょうか?
古楽器はドイツ式?19世紀ギターではすでに混在?
ドイツ式が合理的ということはギター系の楽器はすべてスペイン式なのかな?と思ったら実はそうでもないようです。
上の写真はリュートを描いた絵(が掲載されているCDのジャケット)ですが、明らかにリュートのネックとボディがドイツ式で接合されています。
一方、19世紀ギターの時点ではすでに混在しているようです。
Information Home Page より
こちらは19世紀ギターのルイス・パノルモの内部構造ですが、ネックのあたりを見るとスペイン式なのかな?という気がします。
Information Home Page より
一方、こちらはラコートの内部構造ですが、ドイツ式のようです。
ちなみに、パノルモはイギリス、ラコートはフランスの製作家だそうです。
ドイツ式のバイオリンとマンドリン
現代のクラシック音楽界で主役といえるバイオリンもドイツ式なのだそうです。
同様にマンドリンもドイツ式なのだそうで、どうもスペイン式のようにネックにボディを合体させる方式はクラシックギター特有のようです。
構造の違いはそれほど気にする必要はない
音の違いは大きくなく、国とも関係ない
一般にはドイツ式はスッキリと見通しのいい音、スペイン式はふくよかな音とか言われていますが、実はそれほど構造による音の違いはないとも言われています。
また、ドイツのギターだからドイツ式、スペインのギターだからスペイン式というわけでもないようです。そもそもこの呼び方自体が日本独自のものっぽいですし。
たとえば、ドイツの名工であるヘルマン・ハウザーはスペイン式で作っていますし、スペインの名工であるイグナシオ・フレタはドイツ式なのだそうです。フレタはもともとバイオリンを作っていたためともいわれています。
修理の手間や値段もあまり違いがない
修理に関しても原理的にはドイツ式の方が有利ですが、それほど気にする必要はありません。クラシックギターのネックを交換したというのは聞いたことがありません。
ネックが関連する故障としてはネックの反り折れがあるかと思いますが、普通は反りは熱処理とうで曲げますし、折れた場合は接着で治します。
コストの面でも高級ギターにとってはあまり変わりません。確かにドイツ式の場合はネックに必要となる木材の量が少なくて済みますが、差は大きくないですし、そもそもクラシックギターの値段に占める割合は小さいです。
自分のネックの接合方式がスペイン式かドイツ式か調べるには?
自分が使っているギターの接合方式がスペイン式かドイツ式か調べるのは簡単です。サウンドホールからネックとボディの接合部分をのぞくとわかります。
上の写真は私の使っている桜井正毅 レイズドフィンガーボードモデル(RF)の場合ですが、明らかにネックの延長部分が裏板と側面板と内部で接合されており、スペイン式と判断できます。
わかったところで何か実質的に得するわけではありませんが、製作者の製作過程や思い、楽器の歴史に思いをはせてみるのもいいのではないでしょうか。