数あるギターケースの中でも耐久性の高さで有名なのがヒスコックスケース(HISCOX CASE)です。その丈夫さから海外からギターを運ぶ際に使われることも多く、製作家からの信頼性も高いケースといえます。そんなヒスコックスケースの紹介と、実際に使用したレビューをお届けします。もっと評価されて良い優れたケースだと感じました。
クラシックギター用ケースについてはこちらの記事でさまざまな製品を比較しています:
イギリス生まれの高耐久ケース
ヒスコックスケースはイギリスで生産される高耐久ケースです。1つ1つが手作りで製作されています。
1985年から生産を始めており、40年近くの歴史があります。
公式サイトによると、これまでに世界中で600,000人のミュージシャンに使われ、140のメーカーや製作家に使われたのだとか(参照:https://hiscoxcases.com)。
その特徴が3重の防御機構です。
500kgの耐荷重
ヒスコックスケースの耐久力はかなり高く、500kgの荷重まで耐えられます。
人が乗っても全然大丈夫です:
その秘密がABS樹脂製+ポリウレタンフォームの内部構造。一見普通の木製ハードケースのように見えますが、実は外殻がABS樹脂、内部がポリウレタンフォームでできており、それにより500kgの耐荷重を実現しています。
丈夫さを売りにしているケースは色々ありますが、具体的な耐荷重を示しているのはヒスコックスケースくらいであり、その自信がうかがえます。
高い衝撃吸収性
内部のポリウレタンフォームは高い衝撃吸収性に貢献しています。
ポイントは、ABS樹脂の外殻とポリウレタンフォームがスキマなく密着しているという点。
これによって高い強度を実現しているのだそうです。
たとえABS樹脂がへこむほどの衝撃を受けても、ポリウレタンフォームが衝撃を吸収し、大切な楽器を守ります。
高い防水、防音、防湿性能
ヒスコックスケースのもう1つの特徴が、サッシ部分に使われているアルミニウムサッシです。
このアルミニウムサッシは波状に成型されており、水や湿気をシャットアウトします。
また、先述のスキマのない接着も温度や湿度の変化防止に役立っています。
クラシックギター用のラインナップは3種類
このヒスコックスケース、日本ではすべてまとめて「ヒスコックスケース」と呼ばれますが、実は3つのラインナップがあります。それらの違いを解説しましょう。
スタンダード(STANDARD)
ヒスコックスのなかで最も安価なケースです。
といっても3重の防御機構や500kgの耐荷重は備わっており、しっかりと楽器を守ってくれます。
上位版との違いは外殻であるABS樹脂の厚み。上位よりも薄くなっています。
その分重さは3.84kgと上位よりも軽いのはメリットともいえるでしょう。
また、サイズのラインナップが1種類しかないのも上位版との違いです。
色は黒とアイボリーの2種類があります。現地価格は黒が147.5ポンド(約24,000円)、アイボリーが165.5ポンド(約27,000円)です。
外殻の厚みが増えたPRO II
ラインナップのなかの中位モデルがPRO IIです。日本ではこのモデルが「ヒスコックスケース」として扱われているように思えます。
こちらはSTANDARDに比べて外殻のABS樹脂が33%分厚くなっており、何かが刺さったときの耐久性が倍になっています。その分重さは増え、Sサイズが3.99kg、Mサイズが4.02kg、Lサイズが4.08kgです。
また、500kgの耐荷重などはそのままですが、内部のクッションが増えたり、ギターのボディの四方にパッドがつくなど耐衝撃性が向上しています。
日常生活で何かが刺さることはなさそうに思えますが、傘の先端が刺さることはありそうですし、事故や地震の時は何が刺さってもおかしくありません。
その意味で刺すことに対する耐久性が高いのは意味があると思います。
見た目としてはSTANDARDが縦に2本の線が入っているのに対し、PRO IIにはないです。
STANDARDと違い、3つのサイズが用意されているのも特徴です。
後述しますが、私の弦長645mm、トーレスボディのハウザーIII世にはSサイズがピッタリでした。
色は黒とアイボリーの2色、現地価格は黒が177ポンド(約28,000円)、アイボリーが195ポンド(約31,000円)です。
最強の耐久性を誇るARTIST
最上位のARTISTモデルはABS樹脂の厚みがPRO IIよりもさらに25%増加しており、刺されることに対する耐久性がさらに倍になっています。
こちらはPRO IIとの見た目の差は少なく、ちょっと大きく丸くなったかな?という印象です。
また、内部のベロア生地も高級なものを使用し、エッジのアルミニウムサッシもより耐久性が高いものを使用しています(曲げに対する耐久性が倍)。
さらに持ち手が革製になっており、高級感が増しているとのことです。
その分お値段も高く、黒色は307ポンド(約49,000円)、アイボリーは325ポンド(約52,000円)という価格設定となっています。
サイズはPRO IIと同じくS/M/Lの3種類です。
HISCOX PRO IIを実際に使ったレビュー
私は現在、自宅での保管用にヒスコックスのPRO II Sサイズモデルを使っています。
実際に使用して感じたことを書きたいと思います。
実際の重さよりも軽く感じる
最初にこのケースを持ったときの感想は、実際の重さよりも軽く感じるということでした。
おそらく重量バランスや持ち手の設計にこだわっているのでしょう。
私はそれまで桜井マエストロRF専用ケース(4.5kg)を使っていましたが、0.5kgの差よりもずっと軽く感じました。
また、木製のハードケースに比べて身体にあたったときの衝撃が少ないです。身体への当たりが柔らかいということは、楽器に対してもしっかりと衝撃吸収できているということなのでしょう。
とはいえ、4.0kgが2.0kgに変わるわけではありません。持ち運びには軽量ケースのほうがやはり軽いです。
ギターを浮かせて守る設計
最近の軽量ケースは、ギターを四方から囲んで動かないようにするものが大半です。
この場合、ギターとケースの間に少しでもスキマがあれば、そこでギターが暴れてケースとぶつかる可能性があります。
これに対し、ヒスコックスケースはギターの四方に小さなパッドがあり、ここしかケースとギターがあたらない設計です。
パッド以外は硬質の素材でできており、非常に丈夫な印象を受けました。
硬い部分があるとギターがあたるのでは?と思うかもしれませんが、パッドがクッションの役割を果たし、ギターがケースの硬い部分にあたらないようになっています。
また、ギターの底部とネックにもパッドがあり、縦方向に暴れるのも抑えています。
これにより高い防御力を実現しているのでしょう。
アルミサッシがピッタリフィット
ヒスコックスケースの売りであるアルミサッシは、単純に凹凸がかみ合うのではなく、下側のサッシの真ん中に山があって上下で歯車のようにかみ合う構成になっています:
高い精度で作られているのか、かみ合わせもしっかりしており、確かに雨や湿気を防げそうです。
ただ、アルミサッシにギターをぶつけるのがちょっと怖いところではあります。アルミサッシ+ゴムとかのほうが安心ではないかとも思いますが、それはそれで経年劣化の不安があるのでしょうね。
4つのパッチン錠で開け閉めが楽々
ヒスコックスケースを閉じる金具は、4つのパッチン錠しかありません。
このパッチン錠、ワンタッチで開け閉めできるうえに動きがスムーズです。
アランフェスケースなどは金具が大量にあって面倒ですが、4つしかなくてかつ開閉が簡単なのでギターを弾きたいという意欲をそがれることがありません。
Sサイズがショートスケールのギターにピッタリ
私が使っているギターは645mmという少しショートスケールで、かつトーレスタイプの小さめのボディを持つギターです。
このギターを一般的なギターケースであるスーパーライトケースに入れると、ギターとケースの間にかなりのスキマができてしまいます。
一方、ヒスコックスケースのSサイズに入れると上の写真のようにピッタリです。
最近はショートスケールのクラシックギターが流行していますが、ショートスケールサイズのギターに合うケースはあまり多く存在しません。代表的なものはスーパーライトケースの630mmモデルくらいでしょうか。
その意味でヒスコックスケースのSサイズも貴重な存在といえます。
ショートスケールのギターについてはこちらの記事をご覧ください:
日本では入手性が低下しているのが残念
日本でも昔から丈夫なギターケースとして知られているヒスコックスケースですが、最近では入手性が低下しています。
Amazonや楽天にはクラシックギター用のヒスコックスケースがなく、Yahooには高価な並行輸入品しかない状態です。
また、ギター専門店のアウラでもLサイズ以外はお取り寄せ、Fanaは品切れ、現代ギターはそもそも取り扱いがないなど新品を手に入れるのは難しいかもしれません。
かくいう私も中古での入手でした。
最近はおしゃれで軽く、丈夫なケースがたくさんあるのでヒスコックスケースような質実剛健なケースははやらないのでしょうね。
とはいえ、実際に使ってみてヒスコックスケースも捨てたものではないと感じました。
その耐久性はそのままに、もう少し現代風のデザインになって蘇ることを期待したいと思います。